いくら選択肢から選ぶといってもまだ小学生の子どもですから、将来なりたい職業が会社員というのは、夢がないという印象があることは否めません。加えて言うと、女の子は相変わらず、従来ランクで上位になる職業が1位ですから、男女間で乖離が生じているようにも見えます。

 

結局は多くの人が会社員になりますし、筆者も大学を出た後、しばらくは会社員をしていました。堅実な仕事を目標にすることは決して悪いことではないと思います。

むしろ筆者が気になったのは、果たして「会社員」というのは職業なのかという点です。

ユーチューバーやパティシエ、サッカー選手は明確に職業といってよいものですが、会社員というのは職業というよりも、どちらかというと雇用形態を指す言葉です。ところが日本では、この会社員という名称が、職業として定着している印象があります。

諸外国で「あなたの仕事は何?」と聞けば、ほぼ100%職種で返答されます。医者や音楽家など明確に技能職という立場ではない人(つまり日本であれば会社員というカテゴリーに入る人)でも、マーケティングやセールス、経理といった答えが返ってくるのです。普通に考えれば、こうした回答の方が自然ではないでしょうか?

ところが日本では「〇×商事に務めています」「△×証券です」と会社名が返ってきたり、あるいは「中堅企業です」など、所属している会社の状況について語るケースが少なくありません。日本のビジネスパーソンは「就職」ではなく「就社」するなどと揶揄されたこともありましたが、「会社員」という言葉が職業として通用しているのは、専門性があまり必要とされず、無難なゼネラリストが求められている現実を伺わせます。

こうした曖昧な職業観は有形無形で、長時間残業や強制転勤など、悪しき日本の労働慣行を誘発している可能性が否定できません。

アンケート調査というのは、回答者が自然に答えられるよう工夫する必要があるため、仮に選択肢の一部が不自然であっても、それを加えた方がより正しい結果を得られるという側面があります。一方で、いつまでも雇用形態を職業のように取り扱っていると、スキルが重視される新しい時代に対応できなくなります。やはり雇用形態よりも職種を優先する社会風潮を作っていった方がよいでしょう。
 


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