3 非常事態の生命維持に対処する
新型コロナウィルス感染拡大に伴い2020年3月からなされた一斉休校措置は、ただでさえ無償労働の支え手不足に悩んでいる親たちにとって、深刻な影響をもたらした。母親たちは突如放り出された子を気にかけながら、自分たちの仕事をどうにかこなすために奔走し、感染予防のために、手に入りにくい除菌グッズやマスクを求めて四苦八苦していた。
未就学の子を持つ保護者を対象にした調査では*11、約半数の人が1日あたり4時間以上育児時間が増えたと回答し、その大半が普段働いている時間だという。休校・休園措置の調整役を担ったのは主に母親である。
新型コロナウィルス禍に限ったことではない。子どもの突発的な病気への対応は日常茶飯事だし、ひとたび非日常的な災害が起これば、家族全員の生命と健康を維持管理すべく、実務的な生活扶助の一切を母親が背負わされがちである。
私の住んでいる地域は2019年に甚大な台風災害により長期にわたって停電と断水にみまわれていた。当時学校は軒並み休校となったが、その理由は「給食とトイレを確保できないから」、と報道されていた。けれども、食事の用意とトイレ確保に困るのは家庭でも同じだろう。学校は避難所として活用される場所なのだから、緊急でポータブルトイレや食料を確保して、家族が日常生活を取り戻すまでの支援をしてくれてもよいのではないかと思ったが、そうはならなかった。
停電のためスーパーやコンビニも軒並み閉まっていて、水や食べ物の備蓄が足りていない人は本当に生命の危険にさらされていた。地方では、給水車のところにたどりつくにも車が必須で、昼間の炎天下に長蛇の列に並ばなければならない。途上国では、平常時から水などの調達に使う無償労働の負荷が女性に偏っていて、有償労働に振り向けられない問題が常態化している*12。日本でも非常時には、父親たちが昼間に職場に出かけ、残された母親たちが水や食料の調達活動に奔走する状況が発生する。
この地域では災害による休校措置から、半年もたたないうちに新型コロナによる一斉休校にみまわれたことになる。いまも感染者が出るたびに断続的な臨時休校日が入る状態が続いている地域もあり、親たちにとって厳しい日々が続く。
何かことがあった時に支援する側に回ってよいはずの公的機関が、非常時には頼りにならない。緊急時の子どもの生命維持は家族、実質的には母親に委ねられている。
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