コロナのこと、ワクチンのこと、さまざまな気になる病気のことを、ミモレでわかりやすく伝えてくれているNY在住の内科専門医、山田悠史先生の新連載が始まります! 
これからやって来ると言われる人生100年時代、私たちは途方もなく長い老後を迎えることとなりそうです。人になるべく迷惑をかけず、痛みもなく、体も自由に動くままで人生を全うしたいというのは、誰もが願うこと。「老化」を感じ始めたその時から、自分の20年後、30年後のためにできることは何か、山田先生が信頼できるエビデンスを元にわかりやすく伝えていきます。
*「5つのM」=アメリカの老年医学学会が提唱している、高齢者診療の指標
 

いつもキャッチボールの相手をしてくれた祖父の変化

 

「ナイスボール!」

私がボールを力一杯投げると、コントロールが乱れても機敏にボールをキャッチし、威勢のいい声をいつも返してくれた私の祖父。70を超えても足腰がしっかりしていて、私の全力投球をいとも簡単にキャッチしてくれました。

医師の父が仕事でほとんど自宅におらず、ほぼ片親家庭で育っていた私の幼少期は、祖父の存在をなくして語れません。

日課だった祖父とのキャッチボールの時間は、祖父との会話を楽しむ、そしてつながりを感じるための大切な時間でした。

それから数年が経ち、祖父は脳梗塞で倒れました。キャッチボールはおろか、歩くのがやっとになり、聞いたそばから言葉を忘れるようになってしまいました。

「おじいちゃん頭が悪くなっちゃって。」

困った顔をしながら、まだ幼い自分に相談をしてくれたのを思い出します。

キャッチボールができないどころか、言葉のやりとりすらままならなくなってしまったことへ寂しさをおぼえると同時に、何より祖父の困惑したような顔を見るのが辛かったのをよく覚えています。

 


「加齢」は等しく起こるが、「老化」は人それぞれ違う


この祖父との経験が、もしかすると私の人生では初めて、老化というプロセスを肌で感じられる経験だったかもしれません。それまでの私は、祖父母も両親も、歳をとっていることにすら実感がなく、皆ずっと同じように生き続けると錯覚していたように思います。

しかし、人は生きていれば必ず歳をとります。歳を取る過程で起こる変化は「老化」という言葉でまとめられています。「老化」と聞くと、皆一様に、皮膚にシワが増え、足腰が悪くなり、やがては寝たきりになるというような過程を思い描かれるかもしれません。

確かにそれは老化のプロセスの一部ではありますが、人が皆同じように老化するかと言えば、そうではありません。歳を重ねる「加齢」は等しく皆に起こりますが、「老化」は、人の顔や性格がそれぞれ皆異なるように、そのプロセスもスピードも、人それぞれ千差万別です。私の祖父のように70歳でキャッチボールができる人もいれば、同じ歳で「老化」のために寝たきりになる人もいます。

その違いはどこから来るのでしょうか?自分が100歳まで長生きして自分の足で歩いて移動ができるように、今からできることはあるのでしょうか?それとも、それは遺伝子に刻まれていて、自分では変えられない運命にあるのでしょうか?

 
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