これからやって来ると言われる人生100年時代、私たちは途方もなく長い老後を迎えることとなりそうです。人になるべく迷惑をかけず、痛みもなく、体も自由に動くままで人生を全うしたいというのは、誰もが願うこと。「老化」を感じ始めたその時から、自分の20年後、30年後のためにできることは何か、山田先生が信頼できるエビデンスを元にわかりやすく伝えていきます。
*「5つのM」=アメリカの老年医学学会が提唱している、高齢者診療の指標
皮膚はなぜ老化する?
老化で何が起こるかについて見ていきましょう。
老化が見た目にわかりやすいのは皮膚でしょう。人は歳とともにしわが増え、外見を変えていきます。皮膚は、老化を最も感じさせやすい臓器と言えます。
年齢とともに、皮膚は薄くなり、皮下脂肪が減っていくことが知られています。また、皮膚に含まれるコラーゲンは年齢によって最大75%も減ってしまうことが報告されています(参考文献1)。あるいは、爪の伸び方も年齢とともに最大50%まで減ることが知られています(参考文献2)。
なぜこのようなことが起こるのでしょうか。これを単純に説明するのはとても難しいですが、逆に言えば、とても複雑なプロセスであることが知られています。例えば、一つ一つの細胞レベルで見ていくと、年齢とともに細胞レベルでのミスが増えることが知られています。ちょうど歳とともにイージーミスが増えたりするように、細胞のレベルでも同じようなことが起こるのです。
しかし、細胞は賢く、少しミスをしてもすぐに修正できるよう、ミスのチェック機構が何重にも準備されているので、普通はミスをおかしてもすぐに修正が可能です。でも、歳を重ねるごとにこのチェック機構もうまく機能しなくなることがわかっています。
このような背景があり、皮膚の細胞でもミスが積み重なっていくのです。ミスを繰り返した細胞は、やがて死に至ります。こうして細胞レベルでの死が重なり、臓器レベルでも衰えていくというわけです。
細胞がミスを重ねると必要なものが十分作れなくなります。例えば、若いうちは皮下脂肪を十分生み出すことができ、その皮下脂肪が表面の皮膚をしなやかに、そしてピンと張った状態で維持してくれます。しかし、この皮下脂肪が歳とともに十分作れなくなり減っていってしまうことで、皮膚のハリが弱くなり、しわができてしまいます。
薄くなった皮膚に起こること
しわができるだけなら体には支障が出ないかもしれませんが、薄くなった皮膚は壊れやすくなります。すると、若い頃ならなんともなかった僅かな圧力でも皮膚が破れてしまうようになります。皮膚は体を守る大切なバリアですから、これが破れてしまうと、体の中に細菌が入り込んで感染症を起こしてしまったり、出血してしまったりということにつながります。これは老化で起こる問題と言えるでしょう。
こういった加齢での変化に加えて、例えば太陽光による紫外線の暴露が増えると、皮膚のコラーゲンの減少が起こり、しわも増えやすいことが知られています。遺伝情報だけでなく、環境によって加齢が加速する好例ですね。
一方で、ニキビの治療などにも用いられることのあるトレチノイン(※)という塗り薬を9ヶ月間毎日塗り続けると、皮膚の厚みが回復し、コラーゲンが増加したとする研究があります(参考文献3)。このことは、加齢による変化が、工夫によって軌道修正可能なのかもしれないことを示唆しています。
(※ただしこのトレチノイン、皮膚に赤みが出たり、妊娠中に使用すると胎児奇形につながる可能性なども指摘されていますので、この文章を読んで安易に使用を開始しないようにしてください。)
このように老化というのは、ただ年齢を重ねることだけでなく、環境など様々なものに影響を受けながら進んでいくのです。
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