介護保険を駆使して不可能を可能に

「おひとりさまでも自宅で最期を迎えたい」知っておきたい費用と心構え_img0
 

お家でひとりで死ねますか?──この問いこそが、本書で追究してきた問いでした。答えは出ました。はい、できます。家族がいてもできますが、いなくてもできます。独居でもハードルは越えられます。ガンなら楽勝。認知症でもOKです。

 

それもこれも、介護保険あってこそ。

これまでわたしは現場の専門職に、「お家で死ねますか?」「おひとりさまでも在宅で死ねますか?」と食い下がってきましたが、介護保険20年の蓄積は、現場の経験値とスキルを上げることで、手が届かなかった可能性を現実にしてきました。その20年間の経験の蓄積をあなどってはなりません。介護保険は、それだけの人材とノウハウを生んできたのです。

ですが、困ったことに、介護保険はいま、危機に立っています。

介護保険は2020年で20歳を迎えました。介護保険が生まれてこの方「被虐待児」と呼ばれてきた理由は、3年に1度の改定を仕込んだこの法律が、3年ごとに使い勝手が悪くなってきたからです。たびかさなる改定のたびに、介護報酬減額や同居家族への利用制限、「不適切利用」への指導など、制約が多くなってきました。

今さら介護保険のない時代には戻れません。介護保険は「失われた90年代」に日本国民が成し遂げた変革のうちで、個々の家庭に直接影響する、もっとも大きい変革でした。日本は介護の社会化への巨大な一歩を踏み出し(まだ「一歩」にすぎませんでしたが)、その恩恵を多くの高齢者とその家族が受け取りました。この変革をなしとげたのは団塊世代の有権者たちでしたが、もとは自分たちの介護負担を減らしたいという動機からだったとはいえ、今度は自ら利用者としてその恩恵を受けることができるようになったのです。

著者プロフィール
上野千鶴子(うえの ちづこ)さん:
1948年生まれ。社会学者。東京大学名誉教授。認定NPO 法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。京都大学大学院社会学博士課程修了。日本における女性学・ジェンダー研究・介護研究のパイオニアとして活躍。著書は『おひとりさまの老後』『男おひとりさま道』(文春文庫)、『おひとりさまの最期』(朝日文庫)、『女たちのサバイバル作戦』(文春新書)、『上野千鶴子のサバイバル語録』(文春文庫)など多数。

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『在宅ひとり死のススメ』
著者:上野千鶴子 文藝春秋 880円(税込)

累計125万部のベストセラー『おひとりさまの老後』の著者・上野千鶴子さんが、さまざまな事例を引き合いに、おひとりさまが「慣れ親しんだ自宅で、自分らしい幸せな最期を迎える方法」を提案。具体的な費用・制度から心構えまで、「在宅ひとり死」のあらゆる側面に言及した、読んでためになる、そして勇気づけられる一冊です。


構成/さくま健太