自治体トップのワクチン優先接種は本当に「やむなし」なのか _img0
 

町長など自治体トップが、医療従者扱いでキャンセルが出たワクチンを優先接種した事例が明らかとなっています。不公平であるとして批判する声が多いようですが、一方でトップは優先接種すべきとの意見も出ているようです。この問題についてはどう考えればよいのでしょうか。

 

埼玉県寄居町の花輪利一郎町長が、(町長は)医療従事者に含まれるとの判断から、2回のワクチン接種を優先的に受けていたことが明らかとなりました。茨城県城里町の上遠野修町長も高齢者に先がけてワクチンを接種していましたが、町長は町の保険センターの設置者であることから、町長も医療従事者であると判断した結果とのことです。このほか複数の自治体で首長が優先的に接種した事例が報道されています。

組織論的に見た場合、トップの安全が優先的に確保されることについては一定の合理性があります。トップが倒れてしまっては判断も指示でもできませんから、リーダーが安全でいることは極めて重要です。

その点からすると、自治体トップが優先接種を受けることは問題ないように思われますが、今回のケースは微妙なところでしょう。その理由は、組織論においてはトップの安全よりもさらに重要な原理原則が存在しており、一連の対応はその原理原則が無視されているからです。

組織の運営においてもっとも大事なのは、組織の構成員全員が事前に決められたルールを守ることです。というよりも事前にルールを定め、それを守れないようでは、そもそも組織と呼べるものではなく、ただの集団に過ぎません。

非常に情けないことですが、日本はワクチン接種がまったく進んでおらず、下手をすると新興国よりも遅れている状況です。多くの人が不安にさいなまれており、人によってはモラルなどお構いなしで、とにかく自分だけはワクチンを打ちたいと考えているかもしれません。実際、一部の地域では、地元の有力者が役所に圧力をかけて、優先接種を強く要請したという出来事もありました。

少し話がそれますが、圧力を受けた某自治体は、当初、副市長の判断で有力者に優先接種を実施しようとしましたが、メディアの指摘を受けて撤回し、市民に正式に謝罪しています。批判されて当然の行為ではありますが、事実を認めて謝罪したことは立派なことだと筆者は思います。特に当事者だった副市長がカメラの前に立ち、自身の言葉で説明をしていた姿は印象に残ります。

最近は政治家や公務員が説明責任をまったく果たさないというケースがざらに見受けられるようになり、質問に対してまともに答えないことが当たり前の世の中となっています。民主国家として非常に嘆かわしい限りであり、まさに日本の民度が問われる事態といえますが、その点において当該自治体は、ミスはあったとはいえ評価されてよいのではないでしょうか。

 
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