自らもDVサバイバーでシングルマザーのソーシャルライター・松本愛さんが、DV当事者の「声」を丹念に拾い上げ、日本のジェンダー意識の遅れの実態をレポートします。

※個人の特定を避けるためエピソードには脚色を加えている場合もあります

 


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「子の連れ去り」という言葉の定義とは?


DV夫に家から追い出され子どもに二度と会えなくなったAさん、別れても終わらない元夫からのリーガルハラスメントに弁護士費用が百万円単位で消えていくBさん。

そして続く今回のCさんもまた、一度は愛したはずの人にアリ地獄に引き摺り込まれた一人です。なんといっても産んだばかりの子どもを父親に無理やり連れ去られたのですから。

今後、取材に協力してくださる方が増えるにつれ、普通に暮らしていては想像もつかない話をどんどんお伝えすることになると思います。しかしそれは誰の後ろにもぽっかり開いている深い穴。法律やその運用、社会通念などから生まれた深い穴ですから人ごとではありません。一歩足を踏み外せば誰でも落ち込む可能性のある穴なのです。

さてそんなわけで、今回はCさんの話に入る前に、まずは「連れ去り」という言葉の定義から整理をしてみたいと思います。というのも昨今、巷に「子の連れ去り」という言葉が溢れ、不適切に使われているから。例えば、主に子どもの世話をしていた妻が夫からのDVに耐えかねて子どもと家を出たときに「連れ去り」と申告する父親が増えているといいます。

 

弁護士さん曰く、弁護士相談でも、以前は「妻子が家を出て行ってしまって」としょげた様子だった夫が、最近では「妻に子を連れ去られました」と怒りながら事務所を訪れることが多くなったとのこと。

その理由はDV加害者によるロビー活動や報道関係者への働きかけにありました。みなさんも新聞などでもご覧になったことはありませんか?「離婚後、子どもと会えない父親急増、連れ去り防止に対策が急がれる」などの事実とは異なる煽りタイトルで、離婚をして親権を失うことは子供に自由に会えなくなること、そしてそれは自らの権利を侵害されていることだと、大手メディアが報じることが増えているからです。

例えば、令和2年9月27日付の東京新聞には 「背景に単独親権制度」という見出しで 「『同意なき連れ去り』は深刻化している。 (中略)仕事から帰ったら家がも抜けの殻』『妻(または夫)が子どもを連れて出て行ったきり戻ってこない』と不意打ちのように子と引き離されている。なぜこのような連れ去りが横行するのか(中略)作花知志弁護士は 『根底には離婚後、単独親権しか選べない日本の⺠法に問題があり(中略)連れ去った者勝ち』を肌で感じてきた。(中略)家族法に詳しい京都大学の棚瀬孝雄名誉教授は 『(中略)配偶者の暴力があって子を連れて家を出なければならない場合は必ず警察を呼んでその保護下で家を出る(中略)ことが必要だ」などと書かれています。

たとえ夫婦間にDVがあっても、それは子どもには関係ない。殴られている最中に通報するか、夫の同意を得てから別居をするべきだ、それができなければ「連れ去りだ」というのですからえらいことです。

 
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