自らもDVサバイバーでシングルマザーのソーシャルライター・松本愛さんが、DV当事者の「声」を丹念に拾い上げ、日本のジェンダー意識の遅れの実態をレポートします。今回は、産んだばかりの我が子と引き離されたCさんの話の戦いの記録を紹介します。

※個人の特定を避けるためエピソードには脚色を加えている場合もあります

 


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未婚・別居のまま妊娠


Cさんの妊娠が発覚した時、彼女は人生の大ピンチにいました。

元夫からのDVを受け、命からがら逃げ出したものの、そのせいでパニック障害と鬱を発症して生活保護を受給していたCさん。しかしそんな彼女に一見、優しく寄り添ってくれた男性がいました。藁をも掴む気持ちでその彼にすがった彼女を誰が責められるでしょうか。

その彼と付き合うようになり、そして、Cさんは妊娠しました。

パニック障害と鬱病を患う彼女にまともに考えられる思考力はなく、愛する人との子どもを授かったことがわかったとき、彼女が感じたのは「母親になれる、普通の人生を取り戻せるかもしれない」という期待と「私みたいな人間が子どもを幸せにできるのだろうか」という不安。

それもそのはず、その当時、二人はまだ入籍どころか同居もしていませんでした。

 

彼は妊娠を大変喜んでくれましたが、結婚については「Cさんの意思に任せる」と言い、「自分の母親には元気に生まれたら報告する。お前はこんな状態だし、妊娠は何があるかわからないから」とわざわざ言います。

パニックと鬱の中を抱えた精神状態で妊娠初期にお腹の子どもの父親からそんなことを言われたらどう感じるか。そんな想像ができる人は経験者だけでしょうか。不安で不安でたまらず、じっとしていられない。だからこそ全てのリスクからは目を背け「自分が無事に出産すれば良いのだ、そうすれば何もかも上手くいく」と毎日それだけを唱え続け、日々が過ぎるのをただじっと堪えて待つのです。

しかしそんな不安定な中、順調な妊娠生活が送れるわけもありません。

 
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