自らもDVサバイバーでシングルマザーのソーシャルライター・松本愛さんが、DV当事者の「声」を丹念に拾い上げ、日本のジェンダー意識の遅れの実態をレポートします。離婚したものの未だDVの⽀配から抜け出せずにいた中、手を差し伸べてくれた男性と結ばれたCさん。彼の子どもを妊娠し未入籍のまま出産しますが、とうとう子どもを連れ去られてしまい……。

※個人の特定を避けるためエピソードには脚色を加えている場合もあります

 


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法テラスや女性センターに相談しても頼りにならない


彼に子どもを連れ去られた次の日にやってきたのは、彼のお母さん。泣きながら「本当の娘のように思っているから、私は孫を見ないって言うからね」と言ってくれたので、前回同様すぐ音を上げると思っていたら、翌日、彼から「託児所に預けることになりました」とメールが届いたのです。まだ娘は3カ月になる前で、母乳の免疫が切れて病気をしだす頃。予防接種もまだなのにわざわざ母親から子どもを連れ去り一日中託児所に預けてしまうなんて。

しかし「仕事が休めないので託児所はしょうがない、病気のことはなってみないとわからない、自立もしてない分際で生意気を言うな」と言われてしまったCさんは何も言えなくなってしまいました。仕方なく、連れ去り翌日に役所に報告、生活保護から娘を外してもらったといいます。彼のお母さんには「娘を健康保険に入れて」と伝えたのに、その数日後、早速「娘が保険から外れてる!」と彼から怒鳴り込まれたというCさん。「不正受給になっちゃうからって先に言ったじゃないですか」と言うと、彼の怒りはさらにヒートアップ。

 

不在にしている間に家に勝手に入られ、母子手帳を持ち去られ「娘は俺が育てる」と書き置きを残され、Cさんはそれっきり娘に会えなくなりました。合鍵で不在中の家に何度も入られることに加え、道で彼の車に偶然遭遇すれば轢き殺されんばかりの勢いで追い回されるので怖くて家にも帰れない。それなのに彼のお母さんまでがまさかの豹変。「いつ行っても家にいないじゃない。どうして大人しく家で待ってられないの。編み物でもしてればいいじゃない」と送られてくるメール。

Cさんは法テラスや女性センターなど、ありとあらゆるところに相談しました。けれど「彼は親権者ではないのだから未成年略取誘拐で警察へ」とアドバイスをされるばかり。しかし以前交番に入るのを躊躇ったように、彼女は娘の父親に前科をつけることに抵抗がありました。家族のローン審査が通らなかったり、警察官として働けなかったり、警察官との結婚も難しかったりなど、娘の将来への影響はもちろん親族にも迷惑をかけることになるからです。

そして警察へ行ったところで彼を一生牢屋に入れておけるわけもありません。すぐに刑務所から出て来て、仕返しに子どもを殺されてでもしてしまったら、と思うと踏み切れる策ではありませんでした。

 
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