自らもDVサバイバーでシングルマザーのソーシャルライター・松本愛さんが、DV当事者の「声」を丹念に拾い上げ、日本のジェンダー意識の遅れの実態をレポートします。離婚したものの未だDVの⽀配から抜け出せずにいた中、手を差し伸べてくれた男性と結ばれたCさん。彼の子どもを妊娠し、未入籍のまま出産しますが……。

※個人の特定を避けるためエピソードには脚色を加えている場合もあります

 


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物を言う女が気に入らない


出会った当初の弱り切っていたCさんは彼にとって保護の対象でしたが、子どもが生まれたことで少しずつ正気を取り戻していった彼女は、今となってはうるさい存在。だからこそCさんを罰するため、その矛先は娘に向くようになりました。

そのためCさんは娘を父親から守らなくてはならず、これまでより彼に意見せざるを得なくなりました。座りながら娘を抱っこし、娘がずっと泣いていてもお構いなしで、ジャズを流しながら1時間、指を鳴らし続けるだけの彼に「立って抱っこしてみたら?」とアドバイスしたり。「家族で写真を撮りましょう」「泊まっていって3人で川の字で寝ましょう」と提案したり。

しかし彼は物を言うCさんが気に入らない。「いつまで女のつもりなんだ、気持ち悪い」と言い捨て、彼は「娘を家に連れて帰る」と宣言しました。娘が生後3週間のときのこと。それが最初の連れ去りです。

 

連れ去りとはいっても、はじめCさんは彼の提案に従った形でした。

「いつまで女のつもりなんだ、気持ち悪い」と否定されたことも含めて自信が持てず、自分がしっかりしてさえいれば3人で仲良くできる、だから頑張ろう、と。これはその一歩なのだと、哺乳瓶や肌着など必要なものを一式揃えて「お願いします」と娘と一緒に彼に渡しました。

ところが、彼は自分で娘を育てる気は全くありませんでした。

正社員で働く自らの母親に仕事を辞めさせ、子守をさせようとしていたのです。息子と時間をずらして孫の元を訪ねてくる彼の母親は、自身もどこかに歪さを抱えながら、息子の異常性にも気付いているようでした。だからか「私は仕事は辞めない。お前が育てたいなら家から出て行って一人で子どもを育てなさい」と彼に言ってくれたとCさんに報告がありました。するとすぐ彼から「娘を連れに来い」と連絡が入ったではありませんか。

娘に会える喜びで嬉しくて飛んでいったCさん。しかし娘を連れ出した彼は出て来ず、彼のお母さんから「ごめんね、ごめんね。今のうちに連れて帰って」と謝りながら娘を手渡されたといいます。

そしてそれから数週間、彼はCさんにも娘にも会いに来なくなりました。

精神疾患を抱え、生活保護を受けながら未婚の母として子どもを育てているうえ、上記のように困難な状況に置かれているCさんでしたので、役所がチームを組んで対応にあたってくれていました。彼が来なくなったことに加え、役所の手厚いケアのおかげでCさんは安定し、育児への不安も解消され、平穏に過ごすことができるようになったのです。

しかし彼との問題は未解決のまま。平穏は長くは続かず、2回目はそれから1カ月後にやってきました。

 
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