自らもDVサバイバーでシングルマザーのソーシャルライター・松本愛さんが、DV当事者の「声」を丹念に拾い上げ、日本のジェンダー意識の遅れの実態をレポートします。離婚したものの未だDVの⽀配から抜け出せずにいた中、手を差し伸べてくれた男性と結ばれたCさん。彼の子どもを妊娠し未入籍のまま出産しますが、彼に子どもを連れ去られてしまいます。弁護士の助けを得て調停と審判を経て、彼に対して「引き渡しの直接強制」が命じられたものの、彼はマンションの3階から壁伝いに逃走。初回の執行は失敗に終わったのでした。

※個人の特定を避けるためエピソードには脚色を加えている場合もあります

 


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子どもが嫌がるのもお構いなしに過度なスキンシップ


引き渡しは間接強制へ。間接強制とは、債務を履行しない義務者に対し、一定の期間内に履行しなければその債務とは別に間接強制金を課すことで、自発的な履行を促すためのもの。1日3万円の間接強制金、約3カ月分、合計270万円近くを差し押さえたことでやっと子どもを返してもらえることになったものの、ここまでにかかった時間は1年半。娘は1歳7カ月になっていました。引き渡しの際、Cさんがお願いしている男性弁護士ではなく図々しくも女性の職員をと指名してきた彼。女性事務員が立ち会ってくれやっと娘との対面が叶ったのでした。

ところが今度は彼は、母子手帳と自治体から配られる予防接種のシール、そして部屋の合鍵を返してくれず、その上、面会交流調停と親権者変更の調停を速攻で申し立ててきました。(母子手帳だけはその後返してもらいますが、母子手帳には「強制執行等という愚劣な行為に精神バランスが崩れ……」などと書き込まれたホラーなものになっていました)。

合鍵も返してもらえず、引き渡し審判が出てから警察に数回相談するも接近禁止令までは出してもらえず、引っ越しの為の物件も見つからない四面楚歌。団地は親族2名の保証人が必要な為、頼るところのないCさんには申し込みすらできませんでした。

役所からは子どもが帰ってきてからも母子の生活支援を継続すると言ってもらってはいたものの、勧められたのはシェルター。住み慣れたエリアから引っ越して一生逃げ回る生活は嫌だと悩んでいたところ、引っ越し先を確保してくれたのが高校時代の友人でした。「Cちゃんの変わり果てた姿に驚いた。DVというものの怖ろしさを初めて知り、なんとか普通の生活に戻るための手助けをしたいと思った」と、その彼がプロポーズしてくれたことから味方を得、三度目の正直!と結婚を決めたCさん。

娘と新しい夫を養子縁組させ、生活保護から抜けることができたのでした。生活保護のままだったら本来発生しなかったはずの法テラスの料金ですが、Cさんの場合はそういうわけで、差し押さえたまとまった額の間接強制金は弁護士費用となったのでした。

そして極め付けは親権者変更の申し立て。あまりの無茶な内容に調停委員も「刺激しないようにゆっくりフェードアウトしましょう」といって、いつの間にかその話はなかったことに。

 

しかし残ったのが面会交流でした。

相手は法律的に「夫」だったこともなく、養育費も払わず、自身の母親に押し付けて子の監護もせず、あげくCさんに暴力を振るい赤ん坊を連れ去り、強制執行時にはマンションの3階の窓から逃走した危険人物。どうして面会させられるでしょうか。

ですが裁判所はそんな相手に対してさえ、面会交流に対し強硬的な姿勢を崩しませんでした。それどころか「間接強制をかけやすい条件にしろ」と圧力をかけ、試行面会を命じてきたのです。しかし当然結果は散々。

父親は子どもが嫌がるのもお構いなしに過度なスキンシップを繰り返し、助けを求めて母親の元に向かおうとする子どもの前に立ちはだかり邪魔をする。しかしCさんは裁判所から「父子の触れ合いの邪魔をしない事」を条件に立ち合いを認められていたので、口を出すことができません。相手の剣幕に娘が怯え、普段なら数時間平気で居続けられる娘のお気に入りのプレイランドなのに1時間で「帰る」と言い出し、彼とのツーショット撮影も拒否。帰宅後、思い詰めた顔で「あの人怖い、もう遊ばない」と言う。

その結果を裁判所に伝え「会わせたくない」と本音を言ったら裁判官は激怒。そして出された間接強制可能な内容での面会交流の審判書。相手方は駅での子どもの引き渡しを要望していましたが、信頼関係のない相手と娘を二人きりにさせられないと第三者機関の立ち合いを必須条件にしたCさん。しかしまさかの支援機関から支援を断られ、仕方なくCさんとその夫が立ち会うことで話がまとまったのでした。

 
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