かと思えば、松たか子の歌のメロディーと歌詞を共作したシンガー・ソングライターのbutajiにいたってはもはやヒップホップですらない。

さらに、日本の芸能界において至高の存在となりつつある松たか子。だって彼女、「アナ雪」歌ってるんですよ?! 今のシーンを代表するラッパーたちとエルサが共演するってどんな世界線だよって話です。まあ、そういうことを感じさせない松たか子がまた凄いんですが。

(※世界線:もとは相対性理論で提唱された概念を指す学術用語。そこから派生してパラレルワールド、異なる時間軸のこと)

本来であれば「三人の元夫」のラップにもそれぞれ触れるのが筋なんですが、長くなりすぎるので割愛。これほど色も輝きも異なる曲者・猛者たちをまとめあげられたのは、ジャンルも流派も超えてさまざまな才能とコンタクトできる軽やかさと、誰もが認める実力、その両方をSTUTSが備えているからこそでしょう(余談ですがT-Pablowとbutajiの並びは個人的にかなりの衝撃でした。正直、業界内もけっこうザワついたんじゃないかしら……)。

STUTSが自身のYouTubeチャンネルにアップした、「Presence」の作業の様子。ドラマで音楽を担当した坂東祐大による劇伴をサンプリングしている。

そして勘のいい読者ならもうお気づきですね。そう、STUTSをはじめ参加したほかのミュージシャンも、言ってみればこのプロジェクトにも共通する”とらわれない”感じが、いかにも「風の時代」なんです。ゴールデンで放送される連ドラのエンディングで、今のヒップホップシーンを牽引するトップランカーたちがマイクリレーする未来なんて、いったい誰が想像できたでしょうか。

 

ここ数年、日本のヒップホップシーンはこれまでにない盛り上がりを見せており、そのピークが2019年だったと思います。その矢先のコロナ禍。音楽業界、ひいてはエンタメ業界全体が先の見えない停滞を余儀なくされました。

もしもコロナがなかったら。世界も視野に入れられるほどの実力を備える彼らがあの勢いのまま突き進んでいたら、今の日本の音楽シーンはどんなふうに変わっていただろう。「Presence」はそんな、もう決して訪れることはない「コロナのない2021年」を垣間見させてくれた気がしてなりません。

『大豆田とわ子』主題歌で脚光!気鋭のアーティスト・STUTSの凄さを語らせてくれ_img0
STUTS & 松たか子 with 3exes『Presence』/全10曲収録/2021年6月23日(水)発売/2750円/発売元:ソニー・ミュージックレーベルズ

ドラマは終わってしまいますが、「Presence」の全バージョンをまとめたアルバムの発売が決まっています。曲もそうですが、個人的にはドラマの内容が反映されているという歌詞をブックレットで読むのがめちゃくちゃ楽しみです。最悪、ドラマ観てなくても大丈夫(観たくなったら今はオンデマンドがあるし)。かっこいい音楽知りたいって人はぜひ聴いてみてください。

最後に。STUTSの読みは「スタッツ」です!


文/山崎 恵


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