軽めの運動なら週150分が健康のライン


しかし、運動は本当にやればやるほどいいのか、というと、「必ずしもそうではないかもしれない」ということを示唆する研究もあります。

米国で行われたこの研究では、21歳から98歳までの6万6000人の約14年分のデータを用いて、運動の量と死亡リスクの関連について分析をしています(参考文献3)

 

このグラフの中で、よく推奨される最低限の運動量が7.5MET・時間/週に当たります(左から2つ目、3つ目あたりのグループです)。このMET(メッツ)という単位は運動の強度によく用いられます。見慣れないものかもしれませんので具体例をあげると、7.5MET・時間/週は軽めの運動を週に150分程度、ジョギングや水泳なら週に1時間から90分程度するぐらいの運動量に当たります。

 

グラフを見ると、推奨される7.5MET・時間/週から週あたりの運動量を2倍、3倍と増やしていくと死亡リスクはさらに低下していきます。しかし、10倍以上まで増やすと、場合によっては死亡リスクが増える傾向にあるようにも見えます。

実際には統計学的な差がついていないので結論づけることはできないものの、少なくとも、運動にはいわゆる「天井効果」がありそうで、増やし続ければいいというものではないことがお分かりいただけるでしょう。

これを、たとえば先の水泳(背泳)に当てはめてみると、週に60分から、1日あたり40〜50分毎日行うというレベルまでは運動を増やせば増やすほど健康への効果が高まる可能性がありますが、1日100分を超えてくると効果の上昇は見られなくなり、むしろ有害性が高まる可能性があるといった具合です。

実際に、過剰な運動は、心房細動と呼ばれる不整脈や心筋梗塞などのリスクを高める可能性も指摘されています(参考文献4)。何事もバランスなのです。

 

『日米で診療にあたる医師ら10人が総力回答! 新型コロナワクチンQ&A100』
著 コロワくんサポーターズ
価格 990円(税込)
日経メディカル開発

山田悠史先生を始め日米で活躍する医師らのチームが、新型コロナワクチンに関する疑問や不安に答えてくれるLINE公式アカウント「コロワくんの相談室」が待望の書籍化! 「ファイザーとアストラゼネカのワクチンの違いって何?」「接種後に副反応が起こったらどう対処すればいいの?」といった誰もが知りたい100の質問に、わかりやすく答えてくれます。この1冊でワクチンへの不安を払拭!


参考文献
1 O’Donovan G, Lee IM, Hamer M, Stamatakis E. Association of “weekend warrior” and other leisure time physical activity patterns with risks for all-cause, cardiovascular disease, and cancer mortality. JAMA Intern. Med. 2017; 177: 335–42.
2 Saint-Maurice PF, Troiano RP, Bassett DR, et al. Association of Daily Step Count and Step Intensity with Mortality among US Adults. JAMA - J Am Med Assoc 2020; 323: 1151–60.
3 Arem H, Moore SC, Patel A, et al. Leisure time physical activity and mortality: A detailed pooled analysis of the dose-response relationship. JAMA Intern Med 2015; 175: 959–67.
4 Lavie CJ, O’Keefe JH, Sallis RE. Exercise and the heart-the harm of too little and too much. Curr Sports Med Rep 2015; 14: 104–9.

構成/中川明紀
写真/shutterstock


前回記事「座る時間が長いと”がん”のリスクが増加!? 「運動」は無料で最高の良薬【医師が解説】」はこちら>>

 
  • 1
  • 2