山下氏や橋本氏が現役時代だった80年代から90年代にかけては、アマチュアスポーツが大きく変容し、五輪イベントにも巨額のカネが動くようになった最初の時代でした。この時、スポーツ界において指導的な立場にあったのは、1964年に行われた前回の東京五輪で活躍した人たちです。

当時も、スポーツ界の指導者たちが自身が所属する団体の利益を最優先し、若い選手(山下氏や橋本氏など当時、現役だった選手たち)を酷使しているといった批判の声が出ていましたし、世間一般も、年配の指導者たちが時代に合わない対応を行い(パワハラという言葉こそはありませんでしたが)、若い選手が犠牲になっているという感覚を持っていたと思います。

6月3日、東京オリンピック・パラリンピックの表彰式アイテム発表会に出席した山下泰裕JOC会長。写真:松尾/アフロスポーツ

山下氏や橋本氏における個々の状況は分かりませんが、当時、上の人たちから不当な圧力を受けていた若い世代の人たちが、今は組織のトップに立ち、当時と似たような批判を受けている図式になります。

 

パワハラなど組織の被害者だった人たちが、いつの間にか加害者になるという現象は、スポーツ界だけの話にとどまりません。近年、バブル世代上司による若年層へのパワハラがよく問題視されますが、彼等が新入社員だった80年代には、当時の中高年社員から同じような扱いを受けており、今と同様、社会問題になっていました。

当時の記事を見ると、バブル世代の新入社員は「絶対、上のような人たちにはなりなくない」「仕事とプライベートを一緒にするなどあり得ない」など、中高年世代に対する批判のオンパレードです。上の世代を激しく批判していた彼等は現在、50代になっているわけですが、「愛社精神がない」「仕事を甘く見ている」など、今の若い世代に対して当時の中高年とまったく同じ発言をしています。

つまり、組織の体質が変わらないと、その構成員はいつの間にか人格まで変わってしまうという話であり、もしこれが本当なら、かなり根が深い問題だと言わざるを得ません。今、スポーツ界で指摘されている問題が組織に深く根ざしたものであれば、再び同じことを繰り返す可能性が高くなります。これは私たち自身に関わることですから、問題を解決するのは想像以上に大変なことなのです。
 


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