スタイリングディレクター大草直子著『飽きる勇気〜好きな2割にフォーカスする生き方』より、「変化を恐れず自分軸で生きるアイデア」を一日ひとつずつご紹介します。

 

2020年で、フリーランスのスタイリスト、エディターとして働き始めてから、20年が経ちました。5年弱勤めた出版社を辞め、その当時、情熱も時間も捧げていたサルサを本場で習いたくて、中南米に向かったあのころ。正直、明確なキャリアプランはなく、「いまと同じ働き方で、同じ場所に、5年後はいない」という確信だけを手に、人から見たら「荒唐無稽な選択」をしたのでした。

 


半年間、キューバやメキシコ、ドミニカ共和国、ブラジルと回り、私の世界は、ネイビーやブラウン――という静かな色から、赤、緑、黄色、とエネルギー溢れるそれに変わりました。そして、その色の感覚や、「女性らしいファッションを楽しむ姿勢」は、間違いなく私自身のおしゃれはもちろん、スタイリングやディレクションで関わるいまの仕事にも生きているから面白い!

帰国後、名刺には肩書を刷らず――というのも、企画立案、スタッフィング、スタイリング、ライティング、と出版社時代に叩き込まれたすべての業務を、「点」としても、「線」としてもやろうと思っていました。なので、あえて肩書を限定せず、新人フリーランスとして、好きなように使ってもらおうと、活動を開始。そのうちに、スタイリスト本人が前に出てメッセージを発信する「スタイリストブーム」が起き、不思議なことに独立した5年後、「スタイリスト大草直子」と呼ばれることが多くなったので、名刺の肩書もそのように。いま思うと、「これから先は、さまざまなタイトルを複数持つほうが、仕事が広がる。そしてキャリアの寿命が長くなる」と感じていたからこその、フリーランスになりたてのころの決断だったように感じます。

現在は、会社を立ち上げ、スタイリストとしてだけではなく、コンサルティング、執筆、編集のほか、セルフメディアを主宰し、スタートアップブランドのアドバイジング、さまざまなコラボ商品の監修、開発などをしています。全く方向性の違う内容ですが、一つ一つがインスパイアし合い、それぞれで手にしたスキルや情報、人脈をつなぎ、補完し合うことができるから、この仕事のやり方は、まさに自分だけの個性だな、と思っています。

そして、奇しくも、名刺に名前と連絡先だけ印刷した最初の一歩から20年が経った今年、新しい肩書「スタイリングディレクター」としてスタートします。「スタイリング」という言葉を広義で捉えると、整える、導く、組み合わせる――という意味もあります。服だけでなく、人と人、人と物、プロジェクトとプロジェクトを「スタイリング」し、さらに「ディレクション(制作・編集・指揮)」するお手伝いができたらと思っています。

このエピソードからもおわかり頂けるように、この20年間、最初は無意識に、いまは意識的に「面白いこと、ワクワクすること、好きなこと」を選択している私がいます。それは、もしかしたら仕事という大きなカテゴリーのなかのわずか2割かもしれない。けれど、それで良いと確信しています。集中する、力を発揮する、成果が出る。すると、またその2割にフォーカスできる。飽きる、狎れる、流すことを正しく怖がり、そうなる前に、いる場所を移す、やり方を変える、飽きる勇気を持つことが必要です。もしかしたら仕事だけではなく、広義での「生きること」においても。きっとこれからもそれは変わりません。「飽きること」「変わること」は全然わがままじゃない。勇気を持って飽きる、恐れずに変わる――。その考え方、具体的な方法を、この本では紹介しています。

私自身がこの本を作りながらそうであったように、皆さんにとっても、キャリアや生き方を整理する良いきっかけになれば、とても嬉しいです。


取材・文/畑中美香