死の恐怖から逃れる方法はあるのか?

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地球全体で見れば、全ての生物は、ターンオーバーし、生と死が繰り返されて進化し続けています。生まれてきた以上、私たちは次の世代のために死ななければならないのです。

「死」をこのように生物学的に定義し、肯定的に捉えることはできますが、ヒトは感情の生き物です。死は悲しいし、できればその恐怖から逃れたいと思うのは当然です。健康寿命が延びて理想的な「ピンピンコロリの人生」が送れたとしても、やはり自分という存在を失う恐怖は、変わりありません。ではこの恐怖を、私たちはどう捉えたらいいのでしょうか。

答えは簡単で、この恐怖から逃れる方法はありません。この恐怖は、ヒトが「共感力」を身につけ、集団を大切にし、他者との繫がりにより生き残ってきた証なのです。

ヒトにとって「共感力」は、何よりも重要です。これは「同情する」ということだけではありません。ヒトは、喜びを分かち合うこと、自分の感覚を肯定してもらうことで幸福感を得ます。美味しい料理を二人で食べて「美味しいね」と言うだけで、さらに美味しく感じられるのがヒトなのです。そしてこの共感力はヒトとヒトの「絆」となり、社会全体をまとめる骨格となります。

 


著者プロフィール
小林武彦さん:1963年生まれ。神奈川県出身。九州大学大学院修了(理学博士)、基礎生物学研究所、米国ロシュ分子生物学研究所、米国国立衛生研究所、国立遺伝学研究所を経て、東京大学定量生命科学研究所教授(生命動態研究センター ゲノム再生研究分野)。前日本遺伝学会会長。現在、生物科学学会連合の代表も務める。生命の連続性を支えるゲノムの再生(若返り)機構を解き明かすべく日夜研究に励む。海と演劇をこよなく愛する。著書に『寿命はなぜ決まっているのか』(岩波ジュニア新書)、『DNAの98%は謎』(講談社ブルーバックス)など。

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『生物はなぜ死ぬのか』
著者:小林武彦 講談社 990円(税込)

ゲノムの再生(若返り)機構の研究者である著者が、人間にとって恐怖の対象である「死」を生物学の視点で捉え、その意味に迫ります。さらに、「老いることの意味」「長生きすることの是非」など、生命活動の根幹ともいえるテーマにも言及。「死=忌むべきもの」「長生き=めでたいこと」といった多くの人が当たり前と思っている死生観を揺さぶる一冊です。



構成/さくま健太