「ほめて伸ばす」「叱ってはいけない」など。近年の子育ての常識に対し、おそらく昭和生まれの多くは隔世の念を抱いているのではないでしょうか? 自分の子ども時代とのあまりの違いに、「自分の親は間違っていたのか?」「自分はまっすぐに育っていないのか?」と疑問を抱いている人も少なからずいるでしょう。

大きな話題を呼んだビジネス書『人は話し方が9割』の著者であり、実業家としても活躍する永松茂久さんは、亡き母の言葉をつづった近著『喜ばれる人になりなさい 母が残してくれた、たった1つの大切なこと』において、子育ての常識が変わっても揺るがない「人生にとって最も大切なこと」を導き出しています。

ちなみに、永松さんの母・たつみさんは、ある日突然「お坊さんになる」と言い出すなどファンキーな面がある一方で、悪さをしたら「叱る」「叩く」を実践する昭和の母そのものでもありました。

大きな成功をつかんだ永松さんを育んだ彼女の言葉とはどのようなものだったのか? 痛烈でユーモラス、そして心に沁みるそのいくつかをお届けします。

 


「自己肯定感を高める=ほめる」ではない!?


永松さんの母・たつみさんはギフト屋を営むかたわら、在家のお坊さんとしてさまざまな人の人生相談に乗っていました。そんなある日、引きこもりの子どもを抱えた母親が彼女を訪ねます。勉強会で「本人の自己肯定感が足りていないから、とにかくほめて育てなさい」と言われたというその母親に対し、彼女は意外な言葉を投げかけました。

 

「お母さんってね、何千年も前からうるさい存在だったのよ。当たり前よね。自分のお腹を痛めて産んだ子なんだから。そんな何千年もたくさんの人ができなかった聖母マリアみたいな存在を目指すほうが無謀じゃない?」

「お母さんはそもそもうるさくて当たり前。『どんなことでもほめなさい』系の話に疑問を持つのはその理由からなのよ。子育てに悩んで、その上、ほめられない自分にまた悩んで母親自身が自己肯定感を失ってしまったら、結局一番かわいそうなのは子どもだよ」

今をときめく子育て論も歴史を引き合いに出されては勝ち目がありません。たつみさんが「どんなことでもほめなさい」系の話に疑問を持つのは以下のような理由からでした。

「なんでもかんでもほめてばかりいたら、いつかその子はほめられないと何もできない子になるわよ。ダメなことはダメってしっかりと言うのも愛じゃないのかな。子どもを信じているからこそ厳しいことも言えるのよね」

永松さんは、子どもを信じ抜こうとするたつみさんがいたからこそ自己肯定感を保つことができたと述べています。彼女は永松さんが高校になじめなくて不登校になってもその行動を否定することはありませんでした。何事もプラスに捉えようとするその性格は、「どうしても朝起きることができない」と訴えた永松さんに対する回答が物語っています。

「あんたはね、生まれたときから夜行性だったのよ。あまりにも夜寝ないからお寺に相談に行ったら『鶏の絵を描いて天井に逆さに貼りなさい』って言われたからしてみたけど、それでもまったく夜行性は変わらなかったね。まあそれでも小学校と中学校はちゃんと学校に行けたから、高校はもういいんじゃない? 社会に出たら夜働く仕事をすればいいのよ」