フリーアナウンサー馬場典子が気持ちが伝わる、きっともっと言葉が好きになる“言葉づかい”のヒントをお届けします。

 

ミモレ読者の皆さま、「ヤーサス!」
いよいよ東京オリンピックが開幕しますね。
1年延長、コロナ対策、緊急事態宣言下、無観客……選手の皆さんのご苦労はいかばかりかと思いますが、悔いの残らないパフォーマンスが出来ますように。

 

2004年、アテネオリンピックを取材させて頂きました。朝と午後の情報番組を担当していたので、時差マイナス6時間の現地で、日中は取材、深夜は生中継。寝不足も疲れもメダルラッシュで吹き飛ぶような日々でした。

第1回近代オリンピックの地、パナシナイコスタジアム(ギリシャ・アテネ)は、美しい総大理石の競技場。20年ぶりのオリンピック出場で中年の星と呼ばれた山本博さんが銀メダルを獲得したアーチェリーと、野口みずきさんが金メダルを獲得したマラソンの会場でした。

そして当時のレギュラー番組「ズームイン!SUPER」での挨拶が、「ヤーサス!」でした。
「こんにちは」と訳されますが、Helloのようにいつでも使えて、かつ目上の方にも使える便利なギリシャ語です。

アテネオリンピック開会式翌日に聖火の見える場所から中継。画像だけで「始まった感」が伝わりますね。ディレクターさんカメラマンさん、スタッフの皆さんは、ワンパターンにならないように常に工夫をこらしています。

オリンピックは、平和の祭典として文化を伝える機会でもありますが、国際大会ではいつも、文化の一翼を担っている現地の言葉の力に助けられてきました。

2000年のトヨタカップ(サッカーのクラブW杯の前身)では、南米代表としてアルゼンチンのボカ・ジュニアーズが来日。試合は夜ですが、観客席リポート担当だった私は、午前中から競技場に足を運んでサポーターを取材。
使えるネタが拾えるかどうかも分からない中、
「ブエノスタルデス」(こんにちは!)と挨拶して片言の英語で話を聞き、
「ムーチャス グラシアス」(ありがとう!)で別れる。
を繰り返すうちに出会ったのが、

「渡航費用は車を売って捻出したんだ。これからの生活? 困るね(笑)。でもボカが僕の全てだから」

という、ボカサポーターの熱狂ぶり。
これを中継でリポートしたら、先輩から「あれは本当の話か!?」と確認されたほど、ある意味出来すぎの実話でした。

世界初の国際女子駅伝大会で、高橋尚子さんや野口みずきさんなど、のちのオリンピック選手も数多く出場していた横浜国際女子駅伝。

横浜国際女子駅伝でのタスキリレー実況スタンバイ中。顔が険しい……。

2006年、私は優勝インタビュー担当でした。
「優勝おめでとう!」だけは直接伝えたいと思い、
中国の「祝賀勝利(チュルハションリー)」
エチオピアの「ウンコアン ダッスヤレ」
など優勝の可能性のある国の言葉を教わり、何度も唱えながら迎えた本番では……

「オブドゥラブリャーユヴァス!」

ロシアが、独走での優勝でした。
(当時、各国担当の通訳さんから教わったものなので、ニュアンスの違いや他の言い回しはあるかもしれません)。

ちなみにこの時、期待のスーパー高校生として日本代表入りしていたのが、現在10000mとハーフマラソンの日本記録保持者、新谷(にいや)仁美選手。
この東京大会で、ロンドン以来2度目のオリンピック代表として10000mに出場します!(決勝は8月7日)。

国際大会の取材を通して、
たどたどしくても、
たった一言でも、
相手の親しんでいる言葉で、
自分が直接届けることで、
心の距離や伝わり方が違ってくることを実感してきました。

そんなわけで私は、ある言葉は七カ国語で話せるようにしています。
英語、フランス語、イタリア語、スペイン語、ドイツ語、中国語、韓国語での、「愛してる」。
これで、広い世界のかなりの人口をカバーできているはずなのですが……日本語ですら未だ出番がありません。


馬場典子の見てきた五輪&国際大会フォトギャラリー
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