フリーアナウンサー馬場典子が気持ちが伝わる、きっともっと言葉が好きになる“言葉づかい”のヒントをお届けします。
七夕の雨は悲しみの涙?嬉し涙?
明日は七夕。
皆さまは、短冊にどんな願いを込められましたか?
二十数年前、この日に「初鳴き」をした私にとっては、どことなく初心にかえる日でもあります。
初鳴きとは、まだピヨピヨの新人アナウンサーが初めて世に声を出す、デビューのこと。
初鳴き後、アナウンス部に戻るとすぐに、部長に聞かれました。
「どうだった?」
かなり空気が張り詰めていたので、
『コメントは、言いたいことをコンパクトにまとめられたはず』
『原稿は噛まずに読めた』
『時間も守れた』
と研修で注意されたことに頭を回らし、「なんとか無事に終えられてホッとしています」という“無難な”返事をした気がします。
すると部長は衝撃の一言。
「私は悔しいよ」
「これから続くアナウンサー人生でたった一度きりのデビューなのに、あなたらしさが全く出ていなかった。噛むとか、時間とか、そんなことより、もっと伸び伸びと、視聴者に馬場典子という新人を知ってもらわないでどうするの」
実際、研修の日々はどこへやら、おっかなびっくり、何も伝えられていないOAでした。
残業代もつかない部長が、夜9時過ぎまで会社に残り見守ってくれていた親心。
自分のことのように「悔しい」と言う親心。
上手いとか下手とか、失敗したとかしないとかより、自分らしく元気に羽ばたいてくれたらそれでいい、という親心。
全く応えることが出来なかったことが情けなくて、部長の愛情が身に染みて、部屋を出た途端、初鳴きからの初泣きとなりました。
あの日は天の川が見えるような天気に恵まれたというのに、私は一転、涙雨……。
……雨といえば。
「洗車雨」という言葉をご存知ですか?(私は最近知りました。)
「洗車したら雨が降った」とこぼすのはよく聞きますが、車は車でも、こちらは牛車。
1年に一度、7月6日に降る雨は、彦星がデートの前日に牛車を洗っている水だから、洗車雨。
あいにくの天気でも、微笑ましく感じられます。
ちょっと意外に思われるかもしれませんが、七夕は雨の特異日で、前後の日に比べて一際雨になることが多い日です。(こちらは初鳴きのときに知りました)。
七夕に降る雨にも「催涙雨」というこの日だけの名前があります。雨で天の川の水かさが増して、会うことが叶わない織姫と彦星の涙、なのだそう。
興味深いことに、お隣の韓国では対照的に、1年ぶりに会えた嬉し涙、なのだとか。
いずれにしても、現実の煩わしさよりも、織姫と彦星の恋物語に思いを馳せる……なんともロマンティックな雨の日の過ごし方ですね。
馬場典子・新人時代のフォトギャラリー
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