Aβに対してはいくつもの治療薬が試されてきましたが、ここまでほとんど全ての薬が失敗に終わっています。

2021年に入り、アデュカヌマブという薬が米国で条件付きの承認となり話題を呼びましたが(参考文献3)、これもまた、明らかな効果を示して承認に至ったというわけではなく、今なお大きな議論を呼び起こしています。少なくとも画期的な治療薬が開発されたとはまだ言えない状況です。

このように、アルツハイマー型認知症は、残念ながら治療法も予防法も十分に確立していません。このため「アルツハイマー病は予防できる」とは易々と言えないはずですし、それがどこかに書いてあったとしたら、科学的根拠には基づかない誇大広告だと思います。

認知症の原因の60%以上。アルツハイマー病研究の現状とは【医師が解説】_img0
 


脳梗塞によって認知機能が低下することも


アルツハイマー病の次に多い認知症の原因は、脳血管性認知症と呼ばれるものです(参考文献4)

 

これは、いわゆる脳梗塞、あるいはより小さな脳の血管の病気などを背景に、脳の神経細胞がダメージを受け、認知機能が低下していく病気です。

アルツハイマー病とは異なり、脳梗塞が生じるたびに悪化していくため、階段状の進行を示すのが特徴の一つです。

ただし、脳血管性認知症の人の多くは、アルツハイマー病などと複合した原因で認知症になっていることも知られています(参考文献5)

これらの病気は、いずれも年齢とともにその頻度が増えることが知られています。しかし、現段階では残念ながら治すことのできないものであり、発症後にその進行をなだらかにしたりといった取り組みが重要になります。


前回記事「「認知症」と「物忘れ」は違う!その判断基準とは?【医師が解説】」はこちら>>


参考文献
1    Querfurth HW, LaFerla FM. Alzheimer’s Disease. http://dx.doi.org/101056/NEJMra0909142 2010; 362: 329–44.
2    Murphy MP. Amyloid-Beta Solubility in the Treatment of Alzheimer’s Disease. N Engl J Med 2018; 378: 391–2.
3    Aducanumab (marketed as Aduhelm) Information | FDA. https://www.fda.gov/drugs/postmarket-drug-safety-information-patients-and-providers/aducanumab-marketed-aduhelm-information (accessed July 18, 2021).
4    Pathological correlates of late-onset dementia in a multicentre, community-based population in England and Wales. Neuropathology Group of the Medical Research Council Cognitive Function and Ageing Study (MRC CFAS). Lancet (London, England) 2001; 357: 169–75.
5    JA S, Z A, W B, DA B. Mixed brain pathologies account for most dementia cases in community-dwelling older persons. Neurology 2007; 69: 2197–204.

 

構成/中川明紀
写真/shutterstock

 
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