生理のことで悩んだら、それが婦人科を受診するタイミング


伊藤:大きな大会に向けて生理を調整したい場合は、いつ頃から対策を始めるのが望ましいですか?

能瀬:特にいつからということはありませんが、例えば生理痛がある、生理前にコンディションが落ちる、また水泳などの競技で血が出ること自体が気になるなど、生理は日々の練習にも影響が出やすいですよね。

ですから、敢えておすすめするなら「悩みごとが生まれた時が受診どき」。
気掛かりなことがあれば、些細な内容でも構いませんので相談して頂きたいと思います。
また、生理は病気ではありませんが、月経困難症など日常生活に支障が出る場合は明らかに治療の対象。今は色々と対策法があることを知って欲しいですね。

伊藤:アスリートは、痛みを我慢してしまうケースも多いですよね。

能瀬:鎮痛剤を飲んで我慢してしまう選手も多いし、鎮痛剤さえも、一度飲むとクセになるのでは、と飲まずにただ我慢している選手もたくさんいます。
ピルがドーピングに引っ掛かると勘違いしている選手など、正しい知識が浸透していない残念な状況があります。

伊藤:生理の不調は、放っておくと病気になる怖れもありそうですが……。

オリンピック中に生理になった体験談「元日本代表選手と医師が伝えたい正しい対処法」_img3
 

能瀬:月経困難症が頻繁にみられる女性は、将来的に2.6倍ほど子宮内膜症になる可能性が上がります。またそれが不妊症の要因になってしまうことも。

 

本来、そういった知識は10代のうちに身につけておきたいことですが、実際には、月経困難症の対策どころか正常な生理の知識さえ持っていない人が少なくありません。
トップレベルの選手でも、排卵の仕組みや正常な生理周期を知らないことが多く、なおさら10代のうちに知識を得る機会の重要性を感じます。
知識がないからこそ、気づかず見過ごしてしまう症状も多いのです。

また、東大病院女性診療科では、2017年に女性アスリート外来を開設していますが、最も多い相談内容が無月経。
無月経とは3ヶ月以上生理が止まる状態を指しますが、様々な原因がある中で特にアスリートに多いのが、運動量に対して食事量が少なすぎるエネルギー不足です。エネルギー不足により無月経や低体重になると10代のアスリートでも骨量が低下する原因となります。

治療法としては適切な食事を摂るための栄養指導になりますが、本来はその辺りも10代のうちからきちんと知っておいてほしい知識。
というのも10代の栄養は、骨量にとっても大事で、20歳以降に食べる量を増やしたり薬を使って月経を戻しても、同年齢の骨量の平均値まで回復することは難しい。
生理が少なかったり体重が止まってしまったりすると、10代で骨粗しょう症になる危険性も高まります。
10代で失ったものは戻らないので、一生、低骨量、つまり骨粗しょう症を抱えて生きていくことになってしまうのです。

オリンピック中に生理になった体験談「元日本代表選手と医師が伝えたい正しい対処法」_img4
 

伊藤:10代の頃から競技に集中していると、未来の姿にまで想像が及ばないことはよくあると思います。
無月経にしても、「むしろラクになってよかった」と感じてしまう選手もいます。でもその先の人生を見据えてみると、自分の身体をボロボロにしてしまう恐れがあるのですね。