前回も書いた通り、せん妄は心身にストレスが重なった時に起こりやすくなります。入院という出来事はまさに、心身ともに大きなストレスのかかる状態です。
五感が使いにくくなるような状況でも症状は悪化しやすくなります。例えば、夜の暗い時間帯、日中でも窓にカーテンがかかっている状況、また、普段メガネをかけている人が病院にメガネを持ってくるのを忘れたというような状況でもリスクは高まります。
身体的なストレスとしては、痛みや便秘などもせん妄の引き金になりえますし、感染症も原因になりえます。
新型コロナウイルスのパンデミック下では、多くの高齢者がせん妄の症状をきっかけに新型コロナウイルス感染症と診断されてきたことも報告されています(参考文献2)。
高齢者の場合には、必ずしも典型的な発熱や咳のような症状が出ず、混乱や注意力の欠如といった、せん妄の症状だけが出る場合があるのです。これも今ではよく知られた事実ですが、パンデミックが始まった当初は、診断の遅れにつながったケースもあったかもしれません。
根本的な原因の解決で改善することも
せん妄になりやすい人の特徴として、認知症や脳梗塞、パーキンソン病といった脳神経の病気がある人というのが挙げられます(参考文献3)。こういった病気を持っている人は、全体の約半数が入院後にせん妄を発症することが知られています。
そのほかに、年齢65歳以上、慢性疾患を複数持つ場合、多数の内服薬、視覚や聴覚の障害、身体機能の障害、うつ病、アルコール多飲、高血圧などがある場合に、リスクが高いと考えられています(参考文献4)。
こういった人に、入院というストレス、さらには痛みや便秘、何らかの感染症といったストレスが重なることで、せん妄を発症してしまいます。
面会をする家族にとっては、「突然認知症になってしまったのか」とびっくりするような出来事になってしまうかもしれませんが、基本的には元に戻る可逆的な病態であり、せん妄の根本的な原因が解決されることにより、その多くで改善することが期待できます。
前回記事「高齢入院患者の3割が発症!興奮や錯乱を起こす「せん妄」とは」はこちら>>
参考文献
1 Inouye SK, Van Dyck CH, Alessi CA, Balkin S, Siegal AP, Horwitz RI. Clarifying confusion: The confusion assessment method: A new method for detection of delirium. Ann Intern Med 1990; 113: 941–8.
2 Kennedy M, Helfand BKI, Gou RY, et al. Delirium in Older Patients With COVID-19 Presenting to the Emergency Department. JAMA Netw Open 2020; 3: e2029540.
3 DM F, JV A, SK I. Delirium superimposed on dementia: a systematic review. J Am Geriatr Soc 2002; 50: 1723–32.
4 Francis J. Delirium in older patients. J Am Geriatr Soc 1992; 40: 829–38.
写真/shutterstock
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