せん妄には「特効薬」がない


これらの工夫は、実はせん妄の「治療」としても働きます。実際にせん妄を発症してしまった人に対しても、実は予防とほとんど同じことを行うのです。

残念ながら、せん妄には「特効薬」がありません。しかし、少しずつの積み重ね、体と心のストレスを少しずつ軽減する取り組みが、せん妄の予防にも治療にもなります(参考文献2)。そしてそれは、ストレスフルな入院生活を少しでも快適に過ごせる工夫でもあり、どの患者さんにも提供されるべきこととも言えるでしょう。

 

しかし、コロナ禍では、このような対策が取りづらくなってしまいました。家族の面会は制限され、リハビリも思うように行うことができなくなってしまいました。感染リスクを低減するため、医師の入室すら制限される時期もありました。

 

患者さんは病室を出ることも許されなくなり、一日中病室にこもったままです。ただでさえストレスが多い入院生活なのに、そのストレスがますます増大してせん妄のリスクが高まることも想像に難しくないのではないかと思います。

このようにして、新型コロナウイルス感染者におけるせん妄は、今なお大きな問題であり続けています。新型コロナウイルスは、こんなところでも影を落としてきたのです。


前回記事「新型コロナ感染症も引き金に!「せん妄」はなぜ起こる【医師が解説】」はこちら>>


参考文献
1    J W, LS E, JF  de J, KJ K, P E, WA  van G. Delirium in elderly patients and the risk of postdischarge mortality, institutionalization, and dementia: a meta-analysis. JAMA 2010; 304: 443–51.
2    TT H, J Y, E O, et al. Effectiveness of multicomponent nonpharmacological delirium interventions: a meta-analysis. JAMA Intern Med 2015; 175: 512–20.

 

構成/中川明紀
写真/shutterstock

 
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