「いじめ」は、解決できない「大人の問題」


ー『こども六法』は「一家に一冊」と言っても過言でないほど広まっていますが、このヒットを山崎さんはどう感じていらっしゃいますか?

法律って、興味はあるけど取っつきにくい、という認識が広かったんだろうなぁというのが率直な感想です。だから『こども六法』に対する抵抗感も、想定していたほどは強くなかったように思います。

また「いじめ」については、子どもの問題というよりは解決できない「大人の問題」と私は考えているので、法律が「いじめ問題」に対してどう対処しようとしているのか、社会制度の中で犯罪行為とはどういうものなのか、改めて大人も一緒に学んで欲しいと思います。

ー『六法』を学ぶと、どんな変化が見られると思いますか?

立ち止まって考える力がつくと思います。学校では算数や国語などの基礎科目を通して“正解を出す”思考回路を学びますね。ただ、テストで点数をとることを重視するあまり、“正解”が一番大事という意識が強まることも多いです。すると何が起きるかというと、問題が発生した時に“回答らしき”ものが横にあるとそれに飛びついてしまうんです。

例えば、根拠が薄いデマがネットで出回ることがありますよね。デマがなぜ力を持つかというと、もちろんデマが悪いのは前提ですが、デマは“人を騙すため”のもので真実に見えるように作られている。そこで「これは本当かな?」と疑問を持たない人たちが「真実だ!」と思い込んでしまう。「こんな情報がある。でも本当かな?」と疑問を持つだけで全然違います。
法律を学んでいると、情報を精査したり、他の情報と比べたりする癖がつきます。その一歩踏みとどまって考える習慣をつけるのが、法律を学ぶ意義です。そういう力を身につけられると良いと思います。

 


法律を学ぶことで「自立」と「自己責任」を理解できる


ー山崎さんは『こども六法』の執筆だけでなく、スクールの運営などもされていますが、親子の教育に関して思うことはありますか。

 

「対等な親子関係」を勧めていけたらいいのかなと思います。「対等」というと「子供に下手に出てはいけないのでは」と言う人もいますが、「下手」は「対等」じゃないですよね。
「対等」とは、つまりフラット。親と子の立場はもちろんありますが、一方的な押しつけではなく、教える、導くということを1対1の信頼関係の中で築かなくてはなりません。

子どもは自分を尊重してくれるという信頼関係の中であってこそ、自立した大人に育ちます。自分の人生を、自分の責任において決定できる大人になる。大人にとっても難しいことですが、子どもと一緒にそれができるように学んでいくという姿勢が重要なのではないかと思います。これは僕が主張する教育の1番の目標です。

ー「自立」や「自己責任」は子育ての課題になることが多いですね。

法律の話で言うと、法律とは基本的に「個人は自由である」という前提の元に作られています。しかしそうなると「物を盗むのも自由なのか?」となります。私たちは法律の世界で生きているので「窃盗はいけない」と当然分かっていますが、実は、それすら自由というのが法律の前提です。

ただ窃盗を無限の自由と認めてしまうと、ある人の自由という権利のために、財産という権利を侵害されてしまう人が出てきます。また社会の秩序も壊れるので、そういった事態を招いてしまう行為はピンポイントで禁止する、それが法律の考え方です。

例えば、イラっとするシーンに遭遇した場合、殴ってやりたい、殺してしまいたい。でも殺したら犯罪になる。そう頭で分かっているから、人はその感情を鎮めるために「傷ついたことを相手に伝える」「無視してその場をスルーする」「殴らない」という選択肢を考えます。けれど「殺す」という選択をしたら犯罪になる。

このように、自由に選択肢を選べる前提で法律は考えられているんです。同時に、その選択に対して責任が生じる。この考え方が、自己責任というものです。これは人生でも同じことだと思います。自由を与えられる代わりに自分で責任を持って考えられる、そんな大人になれるよう、子供たちを育てていく必要があります。

ー最後に、読者の方たちへ一言お願いします。

法律は大人も意外と学んでいない知識なので、ぜひ親子で勉強して貰いたいです。
ぜひ新しい知識にトライして欲しいですし、大人は「もう遅い」なんて思わず、ぜひこの本を読んで、子どもと一緒に学ぶチャンスとして、法律に触れて楽しんでいただきたいです。

まんが こども六法 開廷!こども裁判
伊藤 みんご (著) 山崎 聡一郎  (企画・原案) 講談社

条文が並ぶ『こども六法』を見て、 「気になるけど少しむずかしそう……」と買い控えていた 親御さん・お子さんにぜひ読んでほしい本ができました。
まんがを読むだけで法律の知識が 身に付くコミカライズ版が登場。
原案は『こども六法』の山崎聡一郎氏、 マンガは『ゆずのどうぶつカルテ』 シリーズで実績のある伊藤みんご氏。
山崎氏も太鼓判を押す感動&面白い ストーリーで法律を学べる入門書。


取材・文/山本理沙
 
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