『隣人X』で第14回小説現代長編新人賞を受賞し鮮烈なデビューを果たした、フランス在住の作家・パリュスあや子さんによる、ミモレ書き下ろしの新連載がスタート。
パリのアパルトマンの窓から見る、愛の国フランスに住む日本人の恋愛模様、不倫、パートナーや家族の在り方とは……。
三年目のシャンパンフラッシュ(1)
フランスは愛の国、とよく聞く。歴代大統領からしてすごい。
現職の第25代大統領エマニュエル・マクロンの24歳年上の奥さんは、高校時代の恩師。出会った当時、彼女には夫がいて、マクロンの同級生の母親でもあった。それでも17歳の時にプロポーズし、約十年後に本当に結婚した。
教師、友達の母親、おまけに不倫と三拍子揃った略奪愛。日本では政治家になることすらできないだろう。
その前の第24代大統領フランソワ・オランドは、任期中に不倫相手の女優との密会場所にバイクで通う姿をパパラッチされ、エリゼ宮に住んでいた事実婚の奥さんに出て行かれた。それでも大統領としてはきちんと任期を終えるまで勤め上げている。
今もフランス国民から人気のある第21代大統領フランソワ・ミッテランも、正妻の他に、長年交際を続けていた愛人と隠し子がいた。大統領就任後、記者から婚外子の娘について質問されて「それがなにか?」と平然と切り返した逸話は今も語り継がれている。彼の葬儀には棺のそばに家族、そして遺言通り愛人とその娘も寄り添い、共に別れを悲しんだという。
「プライベートと仕事は別の話だから。話題になったとしても、それだけのことよ」
フランス人のソフィは当たり前、という顔で玄米茶に口をつけた。日本が好きで独学で日本語も勉強している彼女は、我が家でお茶をするときは必ず日本茶を飲みたがる。
「日本では政治家だけじゃなくて、俳優や歌手、スポーツ選手……有名人は一般的に『不倫がバレる=キャリアの終わり』だよ」
私がフランス映画「イスマエルの亡霊たち」のDVDをセットしながら言うと「信じられない!」と叫ばれた。
「記者会見も開いたりして、最後は謝罪するっていうのがお決まり。それをテレビやマスコミも大きく扱うし」
「日本は大変だねぇ。もしフランスもそうだったら『不倫謝罪専用番組』が必要になるだろうな」
心底同情するようにソフィが眉をひそめたので、思わず笑ってしまった。
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