ではなぜ夫たちはそのような行動をとるのでしょうか。理由のひとつには、その状況がそれまでの人生において「なじみのないもの」であって、なにをしていいかわからなかったということがあげられます。ASDの人たちは想像することが苦手なので、予定していた入院であっても、「なじみのない環境」については、なにが必要になるか思いつきません。想像することが苦手ということは、「知らないことはできない」ということです。夫たちが会社で地位があるのは、会社には情報がたくさんあり、たくさんの情報をもって学習しているからです。

【大人の発達障害】ASDの夫を持つ妻が陥る「カサンドラ症候群」とは何か_img2
 

別の夫のケースでは、出産が迫ってきてもどんな行動をすべきかまったく想像できず、出産予定日にクルマを点検に出してしまったり、特に急用でもない予定を入れてしまったりと、妻からすれば信じられない行動をしていました。産気づいて一人で入院した妻に、職場からかけつけた夫が「今晩僕はなにを食べたらいい?」と聞くことも珍しくありません。ASDの男性が、風邪をひいて寝こんだ妻に、「僕の今晩のご飯は?」と尋ねるエピソードもこれと同じパターンです。

 

いずれも、自分の身に降りかかってきた問題解決を先に考えて、目の前の相手の気持ちがわからないため、なにを言えばよいか、なにをしてよいかわからないことに起因している言動といえるでしょう。これがASDの人に欠けている「見通しのなさ」なのです。その状況ではどんなことが起き、なにがいちばん求められるか、それぞれの事柄の関連性を見ていないということになります。

その後の妻の呆れた反応から、夫は自分の失敗に気づきます。そして妻から非難を受けるのも仕方のないことと受け止めはするものの、彼らは否定的な評価をされることを極端に嫌います。これがまた妻の怒りを助長するのですが、これは、わからなかったこと、意図しなかったことを責められることに理不尽さを感じ、防衛的になってしまうからです。

ASDの人たちは、してほしいことをはっきりと具体的に伝えてもらわなければわからないことが多いです。これまで経験したことのない状況に直面した彼らは、なにをどうすればよいかわからず、中には自分がしなければならないことに気づかない人もいます。