この夏、世界でも人気の浮世絵を広く紹介する展覧会が開かれています。東京・両国の「すみだ北斎美術館」で行われている「THE北斎 ―冨嶽三十六景と幻の絵巻—」展では、葛飾北斎の代表的な三大錦絵シリーズ「冨嶽三十六景」「諸国瀧廻り」「諸国名橋奇覧」や、幻の絵巻として話題の「隅田川両岸景色図巻」など、人気の北斎作品約100点を前・後期に分けて展観しています。

キャッチフレーズは「極上の北斎、揃えました。」というこの展覧会を、すみだ北斎美術館初の公式BOOK『THE北斎 冨嶽三十六景ARTBOX』(すみだ北斎美術館 編・著)を参考にご紹介しましょう。

 


北斎の知らない「冨嶽三十六景」?

『THE北斎 冨嶽三十六景ARTBOX』p.98-99「山下白雨」
『THE北斎 冨嶽三十六景ARTBOX』p.102-103 「変わり図」もここに。

「冨嶽三十六景」の中でも「三役」としてとくに親しまれているのが、赤富士の名で有名な「凱風快晴(がいふうかいせい)」、Great Waveとして海外でも人気の「神奈川沖浪裏(かながわおきなみうら)」、山裾で稲妻が走る「山下白雨(さんかはくう)」の3点。そのうちの「山下白雨」の“変わり図”が、すみだ北斎美術館では初公開されます。『THE北斎 冨嶽三十六景ARTBOX』の著者で今回の展覧会担当の奥田敦子先生に、詳しく教えていただきました。

「浮世絵版画は一度に200枚ほどが摺られ、その最初の200枚を初摺(しょずり)と呼びます。このときは絵師や版元が立ち会うため、絵師の意図した摺り上がりに近いものが出来ると言われています。それが好評なら(=売れ行きがよければ)さらに摺りを重ねますが、この後摺(あとずり)では、手の込んだ作業が省かれたりすることもあったようです。版木に欠けが生じたり色合いが変わったりすることもあります。さらに版木に手を加えて、当初のイメージから離れたものが摺られることもあったのです」

「山下白雨」変わり図/すみだ北斎美術館蔵(前期展示)

今回初公開のこの「山下白雨」の“変わり図”では、山裾を黒く塗りつぶさずに墨色の松林が加えられています。見慣れない松林ですが、「山下白雨」の好評に気をよくした版元の意図によるもので、北斎のあずかり知らぬ松林だったであろうと奥田先生はおっしゃっています。

富士はどこまで見える?


「冨嶽三十六景」全46図には、江ノ島、芦ノ湖、田子の浦といった富士を望める名所、日本橋、深川、礫川(小石川)など江戸の富士ビューポイントが登場します。しかしなかには、現在の名古屋市中区という、富士山を見るのはムリ! という場所もふくまれているのです。

巨大な桶の中に富士山が納まる有名な「尾州不二見原(びしゅうふじみばら)」。地名からはいかにも富士山が見えそうですが、実際には南アルプスにさえぎられて見えず、奥田先生によると「南アルプス山脈の一番南に位置する聖岳(ひじりだけ)を富士山と見誤ったのでは?」とのこと。「見えているのは富士! 」と信じたかったのでしょうか。

『THE北斎 冨嶽三十六景ARTBOX』p.10-11 いちばん左の図が「尾州不二見原」
『THE北斎 冨嶽三十六景ARTBOX』p.12-13

「冨嶽三十六景」はどこから見た富士山なの? という疑問に答えてくれる「冨嶽三十六景マップ」で確認してみましょう。ただ残念ながら「凱風快晴」や「山下白雨」は、描かれた場所が特定されていません。

9月26日まで開催中!『THE北斎展』

 

現在の墨田区で生まれた葛飾北斎の作品を所蔵・展示する、すみだ北斎美術館。「THE北斎 -冨嶽三十六景と幻の絵巻展-」では、所蔵の「冨嶽三十六景」を全点、前期・後期に分けて展示するほか、2016年の美術館開館記念展で“100年ぶりの再発見”として話題になった、約7メートルの北斎肉筆の巻物「隅田川両岸景色図巻」が、5年ぶりに展示されます(前期・後期で巻替え)。
また北斎の錦絵「桜に鷹」等のオリジナルの版木を使用していたことが新聞などでも話題になった、<葛飾北斎「桜に鷹」ほか四面版木火鉢>を初公開(通期展示)するなど、「極上の北斎、揃えました。」というキャッチフレーズにふさわしい、まさに「ザ・ベスト・オブ北斎!」。豪華な展覧会です。 

『THE北斎 -冨嶽三十六景と幻の絵巻-』展

会期:2021年7月20日(火)~9月26日(日)
(前期:7月20日(火)~8月22日(日)、後期:8月24日(火)~9月26日(日))

会場:すみだ北斎美術館 東京都墨田区亀沢2-7-2

開館時間:午前9時30分~午後5時30分(入館は5時まで)

休館日:毎週月曜日 ※ただし8月9日(月・振休)、9月20日(月・祝)は開館、8月10日(火)、9月21日(火)は休館

※美術館の公式ホームページで、最新の開館予定をご確認ください。
美術館HPはこちら>>

チケット読者プレゼントのお知らせ
5組10名様に「THE北斎 -冨嶽三十六景と幻の絵巻-展」鑑賞券をプレゼント

すみだ北斎美術館で開催される「THE北斎 -冨嶽三十六景と幻の絵巻-展」(2021年7月20日~9月26日)の観賞券をプレゼントいたします。

応募締め切り:8月12日(木)〜11:59まで
●応募にはmi-mollet(ミモレ)の会員登録(無料)が必要です。
●プレゼントのご応募は、1回までとさせていただきます。
●当選者の発表は賞品の発送をもってかえさせていただきます。

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『THE北斎 冨嶽三十六景ARTBOX
すみだ北斎美術館(奥田敦子)・著 2420円(税込) 講談社・刊

すみだ北斎美術館の至宝、「冨嶽三十六景」シリーズ46点を完全収録。初の公式BOOK。

海外で最も有名な日本絵画とも言われGreat Waveとして人気の「神奈川沖浪裏」、「赤富士」として親しまれる「凱風快晴」⋯⋯。すみだ北斎美術館所蔵の「冨嶽三十六景」46図をすべてオールカラーで紹介する初の公式本。豊富な参考図版とていねいな解説、クローズアップで見る彫り、摺りの技。天才・北斎の、技(テクニック)と着想(イマジネーション)ここに極まれり!

奥田 敦子
東京学芸大学大学院博士課程修了。太田記念美術館主任学芸員を経て、すみだ北斎美術館の開設に準備段階から関わる。現在、すみだ北斎美術館主任学芸員として、開館記念展ほか多数の展覧会を企画開催。国際浮世絵学会理事。著書『広重の団扇絵 知られざる浮世絵』(芸艸堂)のほか、葛飾北斎・妖怪・花火などに関する論文・解説多数。

構成/からだとこころ編集チーム