適切に診断されれば有効な治療法はある


では、なぜうつ病の認知や治療が大切かといえば、言うまでもないかもしれませんが、前回のHさんにも見られたように、うつ病が本人の生活の質や他の持病の治療に大きな影響を与えるからです。また、自殺のリスクにもつながります。さらには、うつ病の存在が認知症のリスク増加につながることを示唆した報告もあります(参考文献6)

一方で、うつ病が適切に認識されれば、有効な治療はあります。もちろん、物事はそんなにシンプルではないことも多いですが、何より高齢者のうつ病は、認識されにくく、診断されにくい特徴がありますので、しっかりと診断から有効な治療につなげることが大切なのです。

 

そして、診断や治療の第一歩はまず「気づくこと」にあります。その気づきを与えてくれるこんな質問票がありますのでご紹介します。

 

うつ病を見つけ出す「Geriatric Depression Scale」と呼ばれる質問票は、次の5つの質問(正式にはもう少し多いものですが)からなります(参考文献7・8)

1 あなたは、あなたの人生に、ほぼ満足していますか?
2 よく退屈になりますか?
3 あなたは、よく無力であると感じますか?
4 外出して新しいことをするよりも、自宅にいる方が良いと思いますか?
5 あなたは、現在のありのままのあなたを、かなり価値がないと感じますか?

1は「はい」、2~5は「いいえ」がうつ症状のない人の答えになりますが、1の「いいえ」または2~5の「はい」が合計して2つ以上該当する場合、うつ病の疑いと考えられ、より詳しい質問をしていくことになります。

両親や祖父母を見て「最近元気がないな?」と感じたら、一度この質問票を確認してみるのもいいかもしれません。隠れたうつ病が見つけ出されるかもしれません。そして、その一歩が、命を救う一歩になる可能性もあります。


前回記事「持病を抱えた高齢者に多い「うつ病」。コロナ禍の今は特に注意を」はこちら>>


参考文献
1 Birrer RB, Vemuri SP. Depression in Later Life: A Diagnostic and Therapeutic Challenge. Am Fam Physician 2004; 69: 2375–82.
2
 Cole MG, Dendukuri N. Risk factors for depression among elderly community subjects: a systematic review and meta-analysis. Am J Psychiatry 2003; 160: 1147–56.
3
 Sheline YI, Price JL, Vaishnavi SN, et al. Regional white matter hyperintensity burden in automated segmentation distinguishes late-life depressed subjects from comparison subjects matched for vascular risk factors. Am J Psychiatry 2008; 165: 524–32.
4
 Robinson RG. Poststroke depression: prevalence, diagnosis, treatment, and disease progression. Biol Psychiatry 2003; 54: 376–87.
5
 Lyketsos CG, Olin J. Depression in Alzheimer’s disease: overview and treatment. Biol Psychiatry 2002; 52: 243–52.
6
 Diniz BS, Butters MA, Albert SM, Dew MA, Reynolds CF. Late-life depression and risk of vascular dementia and Alzheimer’s disease: systematic review and meta-analysis of community-based cohort studies. Br J Psychiatry 2013; 202: 329–35.
7
 Rinaldi P, Mecocci P, Benedetti C, et al. Validation of the five-item geriatric depression scale in elderly subjects in three different settings. J Am Geriatr Soc 2003; 51: 694–8.
8
 杉下守弘, 朝田隆. 高齢者用うつ尺度短縮版—日本版(Geriatric Depression Scale − Short Version-Japanese, GDS-S-J)の作成について. 認知神経科学 2009; 11: 87–90.

構成/中川明紀
写真/shutterstock

 
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