病気の予防も同じで、病気の可能性をゼロにしてくれるような予防というのは残念ながらありません。しかし、リスクを可能なかぎり低減するのに役に立ちます。治療の進歩が予防の重要性を変えないのも、全く同じ理由です。予防というのはあらゆる病気にとって、とても重要なステップなのです。

特に、認知症の場合、最大の原因疾患であるアルツハイマー病に劇的に病状を改善するような治療法は、残念ながら見つかっていません。以前、一部に治療可能な認知症があるということも紹介しましたが、ほとんどの認知症には症状をよくできるような治療がありません。だとしたら、予防の重要性はなおさら高そうです。

 


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認知症の発症率が減少しているという報告も


では、認知症の予防はできるのでしょうか。

結論から述べてしまえば、実際には、認知症の予防にも良質な科学的根拠のあるものがないというのが現状です。さまざまな研究が行われてきているのは間違いありませんが、残念ながら、ある単一の介入が認知症の予防につながったということを示す良質な研究がいまだにありません。

これは、もしかすると治療法が見つかっていないことと共通で、アルツハイマー病の原因がまだ完全には明らかになっていないこととも関連するのかもしれません。根っこを掴むことができないと、予防も治療もなかなか難しいのです。

いやいや、世の中には「認知症を防ぐ食事法」「認知症にならない栄養」などといった書籍や広告がたくさんあるじゃないか、と思われるかもしれません。しかし、それらは科学に忠実ではないものばかりであり、十分な科学的根拠を欠く仮説でしかありません。そして、何より注意しなければならないのは、仮説はよく間違うということです。

認知症の発症率を低減するために。「予防」は「治療」に勝る重要なステップ_img0
 

一方、楽観論もあります。複数の先進国から、認知症の発症率が年々減少しているとする報告があるのです(参考文献1)。これはもしかすると、私たちが今行っている介入が何らかの形で認知症を減らすことに寄与しているのかもしれません。

有効な方法が明らかではないものの、さまざまな介入を組み合わせることで、認知症が予防できているのかもしれません。


前回記事「認知症リスク回避!隠れた「うつ病」に気づくための5つの質問」はこちら>>


参考文献
1 Satizabal CL, Beiser AS, Chouraki V, Chêne G, Dufouil C, Seshadri S. Incidence of Dementia over Three Decades in the Framingham Heart Study. N Engl J Med 2016; 374: 523–32.

構成/中川明紀
写真/shutterstock

 
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