しかし、ランダム化比較試験でも十分でないことがありえます。イソフラボンのサプリメントの有効性を示したいと熱意を持っている研究者は、誰がイソフラボンを飲んでいるかを知っていると、その人を手厚くケアしてイソフラボンに有利なように研究が進んでしまうという懸念があるからです。

このため、研究者も誰が本物のサプリメントを飲んでいるかわからないようにすると、さらに質の高い研究を行うことができます。これを専門用語では「盲検化」と呼んでいます。

このように盲検化したランダム化比較試験を行うことで、初めて純粋なイソフラボンのサプリメントの有効性を確認することができます。逆に言えば、そういった試験が行われてない段階では、「期待はあるが実際に有効かどうかは分からない」と解釈する必要が出てきます。

ここまで読んで、難しいと感じた方もいらっしゃるかもしれませんが、薬やサプリメントの有効性を示すというのは実はそれほど大変な作業なのです。

サプリメントにお金をかける価値はある?


では、イソフラボンはどうなのかというと、実は盲検化ランダム化比較試験がすでに行われています(参考文献3)

アメリカのスタンフォード大学で行われたこの研究では、閉経後の健康な女性が350名ほど集められ、ランダムに2群に分けられました。片方のグループには、イソフラボンの豊富な大豆タンパクのサプリメントが、もう片方のグループには、それとそっくりな有効成分の何も入っていない偽物のサプリメントが渡され、被験者はそれを毎日飲みました。

この研究では、サプリメントを飲んでいる被験者の女性も、その被験者を診察する研究者も、誰がどちらのサプリメントを飲んでいるかは分からないようになっています。これが盲検化です。

その上で、2年半の間、認知機能がどう変化していくかを見る研究が行われました。すると、大豆タンパクのサプリメントのグループと偽物のサプリメントのグループで認知機能の変化には差がありませんでした。

認知症予防を匂わすサプリメントに注意!医師が解説する有効性確立の難しさ_img0
 

この結果から、少なくとも2年半の間イソフラボンを毎日飲み続けても、残念ながら有効性が期待できるとは言えない、ということになります。

この2年半の間、どれだけのお金を使うことになるかは分かりませんが、30粒で1000円のものを購入して1日1粒飲んだとしたら、1人約3万円のお金を使っても効果が期待できないということになってしまいます。

 

そうであれば、そのお金は他に使った方が良いのかもしれません。

このような研究は、イソフラボンに限らず、ビタミンCやその他の抗酸化作用があるビタミンサプリメントでも行われていますが、同様に予防効果を示すことはできていません(参考文献4・5)

これらの結果から、現状、認知症予防に推奨できるような有効性を確立したサプリメントはないと言わざるを得ません。


前回記事「認知症リスクが下がるかも!?中高年のベストな睡眠時間は?【医師が解説】」はこちら>>


参考文献
1 Engelhart MJ, Geerlings MI, Ruitenberg A, et al. Dietary intake of antioxidants and risk of Alzheimer disease. JAMA 2002; 287: 3223–9.
2 Commenges D, Scotet V, Renaud S, Jacqmin-Gadda H, Barberger-Gateau P, Dartigues JF. Intake of flavonoids and risk of dementia. Eur J Epidemiol 2000; 16: 357–63.
3 Henderson VW, St John JA, Hodis HN, et al. Long-term soy isoflavone supplementation and cognition in women: a randomized, controlled trial. Neurology 2012; 78: 1841–8.
4 Kang JH, Cook N, Manson J, Buring JE, Grodstein F. A randomized trial of vitamin E supplementation and cognitive function in women. Arch Intern Med 2006; 166: 2462–8.
5 Kang JH, Cook NR, Manson JE, Buring JE, Albert CM, Grodstein F. Vitamin E, vitamin C, beta carotene, and cognitive function among women with or at risk of cardiovascular disease: The Women’s Antioxidant and Cardiovascular Study. Circulation 2009; 119: 2772–80.

構成/中川明紀
写真/shutterstock