おはようございます!

どうしても見たい映画があって、スケジュールを無理矢理やりくりして見てきました。上映終了間近なのでもっと早く紹介できればよかったのだけど、ストリーミング配信されるようになったら、ぜひ。⋯⋯素晴らしかったので。

ハリー・マックイーン監督の『スーパーノヴァ』

ピアニストのサムと作家のタスカーは20年来連れ添った初老のゲイカップル。ふたりが愛犬を連れ、思い出の地や家族・友人を訪ねて湖水地方を旅します。

サム役がコリン・ファース、タスカー役がスタンリー・トゥッチ。このキャスティングだけで、「絶対見なきゃ」となりますよね?(なるなる、と頷いた方は絶対見た方がいいです!)

アカデミー主演男優受賞作の『英国王のスピーチ』で有名なコリン・ファース。『ブリジット・ジョーンズの日記』には若いころから出ていますが、第三作の『ダメな私の最後のモテ期』での、枯れたセクシーさにはまりファンになりました。にじみでる生来の人柄の良さに年を重ねて深みが出て、何を演じてもほんとにいいなぁと思います。

いっぽうのスタンリー・トゥッチは、『プラダを着た悪魔』で主人公のメンター役をつとめた毒舌家のアートディレクター・ナイジェル役が記憶に残っています。演技上手な名脇役の印象でしたが、『スーパーノヴァ』ではものすごい存在感。知的な明るさとピリッとしたユーモアがあって、自在に空気をつくる感じ。

タスカーは認知症を抱え、ゆっくり記憶と能力を失っていきます。そんなタスカーを献身的に支えるサム。「初老の男ふたりをずっと追っていく映画」なんて退屈すると思いきや、釘付けになってしまいました。名優ふたりの演技は多くを語らないのに、カップルの間にあるものがぐっと胸に迫る。しかもコリンとスタンリーは実生活でも20年来の親友で、リアルな絆と信頼がカップルの空気感に命を吹き込んでいます(ロケ合宿中は、スタンリーがコリンに毎晩手料理をふるまったなんてエピソードも)。このままずっとふたりを見ていたい、切ない親密さにあふれていた95分。

サムとタスカーが軽口を叩きあったり、星を見上げたり、愛犬を散歩させたり、キャンピングカーのせまいベッドで身を寄せあったりする様子。親戚や友人に囲まれたあたたかい夕食の場面。ーー人生の極上の喜びがふたりの切実さを包むように描かれます。幸せであるがゆえに、タスカーの病が呼び込む状況はとてつもなく厳しい。

病気によって自立が難しくなっていくタスカーは、けれども意志の強さとプライドを保ちます。一方で愛する人を失う恐れを押し殺し、タスカーとの日々にすべてを捧げることを望むサム。サムに介助されるタスカーがサムを解放しようとし、タスカーにすがろうとするサムがタスカーの魂を救う。手を差し伸べ、差し伸べられる関係が双方向にかさなりあう姿に、パートナーシップの深さと年月の重さを感じるのです。

若年性認知症やLGBTなど現代的な問題を投げかけてはいるけれど、むしろ伝わってきたのは、ストレートで普遍的な愛と喪失の物語。

主演ふたりの演技の素晴らしさだけでなく、サムが復帰するコンサート会場を目指すロードムービーというプロットも秀逸。ふたりの歴史をぎゅっと凝縮したようなキャンピングカーの内装、車窓を流れるおだやかな田園風景、思い出の地である湖の美しさ、無数の星がちらばる夜空、しずかに感情をなでていく音楽。すべてあるべき要素があるべきところにおさまって、無駄なくひとつの場所に向かっていく。そんな映画のイデアみたいな、「まさにこれ」というバランスを感じる作品です。

タイトルのスーパーノヴァとは、星がその一生を終えるときに起こす大爆発。

「失うのが辛いということは、それが良いものだったということだ」ーー思い出のつまった実家を売る予定だとサムの姉から聞いて、タスカーはこう返します。

愛するとは、いつか失う痛みを引き受けること。そしてどう失うかは、どう愛したかそのもの。それでも愛する勇気と楽観を持てる者だけが、まばゆい圧巻の光を見ることができる。そんなポジティブなメッセージを受け取りました。

映画を見終わって自問します。あのふたりのきらめきほどに、自分は、ためらいなく生き、楽しみ、愛せているかと。