あなたも経験があるのではないでしょうか。
親しい人(配偶者や子ども、親、友達など)とあなたが、他の第三者を交えて話をしていたとき、あなたが知らなかった何かを親しい人が明かしたという経験です。

あなたは「知らなかった!」とさえ口走ってしまったかもしれません。
その第三者が、あなたとは違う話の聞き方をしていたから、あなたには語ったことのない内容が出てきたのでしょう。もしかしたら、その人はもっと関心を示し、的を射た質問をし、決めつけず、話をさえぎることもあまりなかったのかもしれません。

 

あなた自身も、相手によって話す内容が変わるのではないでしょうか。
相手との関係がどうだとか、どの程度親しいとかは必ずしも関係ありません。また、知らない人に向かって、誰にも話したことがない何かを打ち明けた経験もあるかもしれません。

何を話すか、どの程度話すかは、そのときあなたが聞き手をどう感じるかによって変わります。表面的にしか聞いていないとか、粗探しのために聞いている、もしくは意見を言う機会をうかがいながら聞いているような相手には、大切な自己開示をあなたはおそらくしないでしょう。逆もしかりです。

 

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親しい人に対しては、自分はもう十分知っているといとも簡単に自己満足してしまいます。
しかし「聴くこと」が、こうした罠にはまらないようにあなたを守ります。相手の話に耳を傾けることが、思い込みから来る予想をひっくり返してくれるのです。
 

著者プロフィール
Kate Murphy(ケイト・マーフィ):
ヒューストンを拠点に活動するジャーナリスト。ニューヨーク・タイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナル、エコノミスト、AFP通信、テキサス・マンスリーなどで活躍。健康、テクノロジー、科学、デザイン、アート、航空、ビジネス、金融、ファッション、グルメ、旅行、不動産など、多岐にわたるトピックを執筆。特に人間関係や、人がなぜそのように行動するのかを、科学的にわかりやすく解説することに定評がある。

監訳:篠田 真貴子(しのだ まきこ)
エール株式会社取締役。社外人材によるオンライン 1on 1を通じて、組織改革を進める企業を支援。「聴き合う組織」が増えること、「聴くこと」によって一人ひとりがより自分らしくあれる社会に近づくことを目指して経営にあたる。2020年3月のエール参画以前は、日本長期信用銀行、マッキンゼー、ノバルティス、ネスレを経て、2008年〜2018年ほぼ日取締役CFO。退任後「ジョブレス」期間を約1年設けた。慶應義塾大学経済学部卒、米ペンシルバニア大ウォートン校MBA、ジョンズ・ホプキンス大国際関係論修士。人と組織の関係や女性活躍に関心を寄せ続けている。『ALLIANCE アライアンス――人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』(ダイヤモンド社)監訳。


訳:松丸 さとみ(まつまる さとみ)
フリーランス翻訳者・ライター。学生や日系企業駐在員としてイギリスで6年強を過ごす。現在は、フリーランスにて翻訳・ライティングを行っている。訳書に『限界を乗り超える最強の心身』(CCCメディアハウス)、『FULL POWER 科学が証明した自分を変える最強戦略』(サンマーク出版)などがある。

『LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる』
著者:ケイト・マーフィ 監訳:篠田 真貴子 翻訳:松丸さとみ
日経BP  2420円(税込)

ニューヨーク・タイムズなどで活躍するジャーナリストの著者が、人生における「聴くこと」の大切さについて説く一冊。スマホやSNSの普及で「自分が見たいもの」だけを見て「いやなものは削除」できる現代では、他者に耳を傾ける力は弱まりつつあると言います。著者の実体験をはじめ、様々な研究結果や識者の言葉を交えて語られる「聴く力」の重要性を知れば、「面倒だな」と感じていた他者との会話もぐんと豊かなものになるはずです。


構成/金澤英恵