一方、コレステロールが高いという場合には、コレステロールを低下させるスタチンと呼ばれる種類の薬を飲むことによって、心筋梗塞や脳梗塞、突然死のリスクを低下させるという因果関係が複数の研究によって示唆されています(参考文献2)。これは多くのサプリメントとの大きな違いです。

つまり、現在までにコレステロールに関して分かっていることをまとめると、次のような感じになります。

「LDLコレステロールが高いほど、認知症リスクは高そうだが、コレステロールを下げれば認知症リスクを低減できるかはまだ分かっていない。しかし、コレステロールを下げることで心筋梗塞や脳梗塞のリスクは減らせるので、薬を飲む意義は高い。それにより、認知症リスクももしかすると低減できるかもしれない」

こういった点を踏まえて(もちろん最終的には個々人の価値観や状況に合わせてとなりますが)、コレステロールがとても高いという場合やその他の理由がある場合にコレステロールを下げる治療を受けることはお勧めできます。
 

高血圧や糖尿病治療も認知症予防の一環


なお、このコレステロールのお話のように、「修正可能な認知症リスク」として、高血圧、糖尿病、肥満、喫煙、飲酒などが知られています(参考文献3)

ただ、「修正可能なリスク」ではありますが、これらはいずれもコレステロールと同様、修正したからといって認知症のリスクを低減できるかまではまだはっきりと分かっていません。

 

例えば、高血圧については、「降圧剤を内服した結果、認知症が減るか」という因果関係を証明するためのランダム化比較試験がすでに複数行われていますが、それらの試験の結果は「減った」とするものと「減らなかった」とするものが入り混じっており、結論は出ていません(参考文献4)

 

ただ、高血圧もLDLコレステロールと同様、認知症予防という点では結論が出ていないものの、例えば脳梗塞のリスクを減らす効果は知られており、これが間接的に認知症を減らすなどという形で寄与してくれることは十分に考えられます。

このように、他の健康面のメリットも十分あることから、高血圧治療や糖尿病治療も、認知症予防の一環としてお勧めすることのできる治療介入と言うことができます。

これら、コレステロール、血圧、血糖値といった問題は多くの場合、異常であっても特に体調や診察所見に変化が出にくいという点で共通しています。

「私は毎日体調が良いからどこも悪くないはずだ」と言う方もいるのですが、いわゆる生活習慣病と呼ばれるこれらの病気は残念ながら症状では分からないことが多いのです。

このため、特に40歳頃、いわゆる中年に入ってからというのは注意が必要で、定期的な健康診断を受けることが大切になってきます。血圧測定や血液検査などでしか分からないからです。体調の良し悪しにかかわらず健康診断を勧められる理由はこういうところにあるのです。

定期的な健康診断と生活習慣病治療。この二つは認知症予防にとってもおそらく重要なものになるでしょう。
 


前回記事「認知症予防を匂わすサプリメントに注意!医師が解説する有効性確立の難しさ」はこちら>>


参考文献
1    Iwagami M, Qizilbash N, Gregson J, et al. Blood cholesterol and risk of dementia in more than 1·8 million people over two decades: a retrospective cohort study. Lancet Heal Longev 2021; 2: e498–506.
2    Chou R, Dana T, Blazina I, Daeges M, Jeanne TL. Statins for Prevention of Cardiovascular Disease in Adults: Evidence Report and Systematic Review for the US Preventive Services Task Force. JAMA 2016; 316: 2008–24.
3    Livingston G, Huntley J, Sommerlad A, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission. Lancet (London, England) 2020; 396: 413–46.
4    Staessen JA, Thijs L, Richart T, Odili AN, Birkenhäger WH. Placebo-controlled trials of blood pressure-lowering therapies for primary prevention of dementia. Hypertens (Dallas, Tex  1979) 2011; 57: e6-7.

 

構成/中川明紀
写真/shutterstock

 
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