ライターさかいもゆるがアラフォー以上で結婚したカップルへのインタビューを通じて、結婚とは、夫婦とは何かを考えます。40歳手前で同級生婚した二人。妊活を経て、45歳を過ぎてから養子縁組に切り替える決断をしたのですが……。「特別養子縁組」の制度とそのハードルについてレポートします。
38歳で再婚し、子供を授からなかったために養子縁組をすることに切り替えた、園子さんと太郎さんの同級生夫婦。しかし、その道もまた平坦なものではなかったそう。
日本では特別養子縁組の斡旋方法の種類や団体は沢山あるけれど、太郎さんと園子さんの考えや状況によって選んだのは、東京都の児童相談所による仲介でした。どうして二人が東京都の仲介を選んだのか? その前に、ちょっと複雑な特別養子縁組のシステムについて聞いてみました。まずは、よく耳にする「里親」と「特別養子縁組」って違うんですか?
園子さん:そのふたつは全く性質が違うものですね。「特別養子縁組」は戸籍でも「長男」「長女」と記載されますし、名実ともに親子関係になるのに対して、「里親」はあくまでも一時預かり。養子として育てることはできないけれど、親が育てられない事情がある子どもを一時的に面倒を看る制度のことなんです。
けれど、ややこしいことに日本の法律では、特別養子縁組を裁判所に申立てするための条件のひとつに「養親と子が6ヶ月以上の期間、生活を一緒にしていなくてはいけない」というルールが。だからどんな特別養子縁組の親も、最低6ヶ月間は「里親」という経験をするし、そのためにまず、国の定める「里親認定」を家裁から受ける必要があるんだとか。
さかい:その認定を取るのは難しいんですか?
園子さん:そんなに難しくはなかったですよ。あくまで私たちが受けた東京都による場合ですが、3日間の研修とその後の膨大なレポート提出とか手間は確かに相当かかったけど、テストもないし、そこまでハードルの高いものではなかったです。
さかい:先ほど、「特別養子縁組の条件のひとつ」とおっしゃっていましたが、申し込むにあたっての条件というのは他にもあるんですか?
園子さん:特別養子縁組に関する法律や制度は日進月歩で、私たちが最初に調べた6年前と現時点でも大きく変わっているので、あくまでも現時点での私たちが理解しているものになりますが……。法律上では、親側が25歳以上(どちらかは20歳以上)であること。上限年齢制限はありませんが、申し込むには夫婦でないとダメ。あとは生活保護を受けていないくらいの経済力があればOKですが、家族ひとりにつき何平米のスペースが持てる居住空間がなければならない。ほかには、子どもが15歳未満であることですかね。
さかい:意外とそんなに厳しい条件ではないんですね。専業主婦にならないとダメとか、世帯年収は高くないとダメとか、持ち家じゃないと……みたいになんとなくイメージしていたものとは違いました。
園子さん:はい、あくまでも法律上はそうなんです。でも実際に子を紹介してくれるNPOとか斡旋団体の多くは、法律以外にも「養親」の上限年齢45歳とかや、子供を迎えたあとに夫婦のどちらかが一定期間「専業主婦(主夫)」になることとか、子どもをまったく選べないこととか、独自ルールを設けている場合が多いんです。
さかい:それで園子さんたちは東京都の児童相談所による紹介を選んだんですね。確かに、園子さんたちが養子縁組の試みを始めたのは45歳すぎていましたもんね。
園子さん: そうなんです。NPOとかだと年齢制限でもうアウトなところが多かったですし、半年以上も仕事をストップさせるわけにもいかない。それに妊娠中からのマッチングが多いため、その後、生まれてきた子に重篤な障害などがあっても引き取らなければならないというルールも私たちにはものすごく高いハードルでした。家族になってから子どもがどんな重い病気を発症したとしても、それはうちの子だからと育てられますが、生まれつき重篤な障害を持つ子を社会に送り出す苦労を知り、そこまで手放しでその責任を負うことは自分たちには難しいなと思ったんです。だから東京都の児童相談所での紹介を選びました。
親の虐待や病気など、何らかの理由によって親元で暮らすことのできない子どもたちが、都内だけでも約4000人います。こうした子どもたちは乳児院や児童保護施設に預けられ、そのうち一握りの「実親が特別養子縁組に同意した子ども」が園子さん太郎さんのように特別養子縁組を望む夫婦に紹介されると言います。園子さんたちのこの2年間では、大体2ヵ月に1〜2人くらいの間隔で紹介を受け、紹介された子に立候補しても、そのひとりの子に対し約70組の他の夫婦たちが立候補するという狭き門。園子さんたちは今まで3度立候補して、残念ながら、3回ともマッチングできずという結果に。
現在、園子さんは48歳。養子縁組への立候補は、「50歳まで続けようと思う」とおっしゃいます。
園子さん:ご縁があれば、親を必要としている子供たちに私たちがその環境を与えられるかも、私たちにも子どもを慈しんで育てることができるかも、という希望を持ち続けていたいんです。だけどさすがに50歳を過ぎてから育て始めるのでは、その子が社会に出るか出ないかのタイミングで私たちの介護が始まってしまったりしては、かえって申し訳ないと思って。
子どもが居ないまま、夫婦ふたりの生活を続けている園子さんですが、その暮らしは実は、さみしさなど微塵も感じさせないほど賑やかなもの。その理由と、おふたりの結婚生活のお話は、次回に続けたいと思います。
※記事は取材したご夫婦のお話に基づいたもので、詳しい養子縁組制度のルールなどについては、各自治体などにお問い合わせください。
構成/川端里恵(編集部)
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