誰もが身体に埋め込んだデジタル機器によって生活からエンタメまでをまかない、人間の思考を全てがAIに代替できるほど没個性が進んだ近未来で、その状況を楽しみながら子育てする母親・推子(おしこ)。作家・本谷有希子さんの新刊『あなたにオススメの』は、人間のデジタル化が当たり前になった時代を描いています。本を読み「そんな世界のほうが、もしかしたら生きやすいんじゃないか」と語るのは、テレビ番組「セブンルール」で本谷さんと共演中のタレント、長濱ねるさん。1回目は、常に型破りな作品を発表し続ける本谷さんの創作の秘密に迫ります。 

 


本谷さんはいつも的を射たことをズバッと言ってくれる


長濱ねるさん(以下、長濱):本谷さんの、私には思いつかないようなことや、スパンと的を射たことをおっしゃる姿にあこがれています。番組で、建築会社で働く女性が「“女性らしさ”を生かして仕事をしている」みたいなことをおっしゃったときに、「“男性社会の中の唯一の女性”としてやってきたから、そういうところに固執してしまうんだろう」とおっしゃっていたじゃないですか。

 

本谷有希子さん(以下、本谷):「細かい塗装の汚れに気づくのは女性ならでは」というような話だったから、「それは性差じゃなくて個人差。気づく男性もいれば気づかない女性もいっぱいいるんだし、それを“女性ならでは”って強調するのはもうよくない?」って話をたしか、したんですよね。

長濱:ああ、そうだなって思いました。そういう「確かに!」っていうことが毎週あって、本谷さんはどういう風な世界を見ているのかなって。

 


SNSってそもそも他人と比較するツールだから


長濱:ちょっと前に、SNSの世界を書いた本谷さんの『静かに、ねえ、静かに』を読みました。めちゃくちゃ不気味でした。SNSに依存してるというか、操られているというか。私も周りでもそれは当たり前の光景だし、自分自身もそうなってしまっていないかなと自問しました。この間、知人がインスタのストーリーズで、風景写真に「#人生最高」って載せてたんです。

本谷:ははは。

長濱:すごくポジティブな感じで「好きなように生きられて幸せ」って。私はそれを見てちょっと落ち込んで、その後、その子に会った時にも悩み相談とかネガティブな話題ばかりの自分に申し訳なくなって「私といるとマイナスに引き込んじゃうよね」って謝ったら、「いや、ハッピーもしんどくなるよ」って。当たり前ですが、SNSに載せていることが本心とは限らないし、生活のすべてでもないと。私のように見ている側が一喜一憂していることとか、本谷さんにはどう見えているのかなって。

本谷:そもそもSNSって、比較するツールだもんなあ。自分がすごくハッピーならプラスに使いこなせるけど、そうじゃない大多数の人にとってはマイナスでしかないと思っています、私は。やっぱり比較して軽く落ち込んだり、「何か足りてないのかな?」って常に不安になりますよね。だから、私は見ません(笑)。