今まで似合っていたはずの服が似合わない。何を着たらいいか分からず、自分に自信が持てなくなってきた……。40歳前後で訪れる体型や環境の変化によって、ファッションに惑う時期のことをミモレは「おしゃれ更年期」と呼んでいます。

悩み多きこの時期を、おしゃれによってどう前向きに乗り越えていくのか? 自身も「おしゃれ更年期」に悩んだという大草直子コンセプトディレクターが、その実体験をもとに「おしゃれがラクになる」処方箋を指南します。今回は、特集のメイクアップを担当し、自分らしさを生かす“ディファインメイク”を提唱するメイクアップアーティスト水野未和子さんとの対談で、「おしゃれ更年期の処方箋」を考えてみたいと思います。

 

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今の自分を認めてあげること。それが最強の処方箋

メイクアップアーティスト水野未和子さんと大草ディレクターはひとつ違いの同世代。雑誌『グラツィア』時代から15年以上にわたってともに仕事をしてきた仲。
大草ディレクター:トップス¥53900/カオス(カオス丸の内) パンツ¥23100/レッドカード(ゲストリスト) (以下すべて大草さん私物)ピアス/ボン マジック ネックレス/SAN MARE (ロンハーマンで購入)

大草:未和子ちゃんが考える、おしゃれ更年期の処方箋ってどんなことがある? 教えて欲しいな。

水野:メイクアップアーティストがこんなことを言ったらアレなんですが、“笑顔”かなあ。心の底からの笑顔があったら、もうどんなものも吹き飛んでしまうよね。大草さんはまさにそうじゃない? シミもシワもあるけれど、あの素敵な笑顔で、気にならなくなっちゃう(笑)。

大草:(笑)。笑顔でいられるというのは、ちゃんと自分のことを認めてあげられるからできることだと思うから、確かにそうなのかもしれない。まずは自分を認めてあげることが本当に大事なんだよね。笑いもあり、涙もあり、怒りもあり、いろいろなことがある人生もそうだし、自分自身の顔も体も。

水野:ちゃんと自分に向き合って、好きなところも嫌なところもちゃんと認めてあげることって大事だよね。特に自分の好きなところをちゃんと自覚するのは大切。嫌いなところは言えても、好きなところがわからないっていう人、多いですよね。

大草:そうなんだよね。全部好きになろうなんて思わず、パーツで3つくらいあればいいの。黒い髪でも、かりっとした肩でも、太い眉でも、自分が好きだと思うところを探してみてほしい。「ないです……」なんて言わずに、ゆっくりと自分と向き合って。もちろん自分が好きだと思えることが大前提だけど、見つかるきっかけはもしかしたら周りからの言葉かもしれない。誰かに褒められたことのあるところを自分でも観察してみるといいと思うな。逆に誰に何も言われないとしても、自分が好きならそれでいいのよ。

水野:そうだね。好きは自分の基準でいいんだと思う。世間ではこれがウケているから、とか、一般的にこう言われているから、というのは気にしなくていい。たとえば一般的にはハリがある肌がいいとされているかもしれないけれど、私は年齢を重ねてゆるんだ肌も色っぽくて好きだなって思うよ。

大草:本当にそうだね。自分の好きなところがわかれば、ヘアメイクもファッションも、それを生かす工夫をすればいいだけ。もし骨がしっかりした手首が好きだとしたら、シャツを着るときは袖をロールアップするとか。

水野:そうそう。もし太い眉が好きなら、眉を強調するために、目元のアイラインやマスカラはなしにするとか。好きな部分をぐっと際立たせると、他の自分が嫌いな部分を無理に隠さなくても、目立たなくなるものなんだよね。好きになれないところや年齢を重ねて変化してきたなと思う部分だって、無理やりなかったことにしようと消したり隠すんじゃなくて、そこはそのままで何かを足したり工夫すればいい。

大草:まさにそうだね、消したり隠したりするんじゃなくて工夫する。ファッションやヘアメイクでの工夫にこそ、その人の知性が現れる気がするな。また話が戻るけれど、工夫するためには、やっぱり自分をちゃんと見つめて、変化も何も認めてあげることが本当に必要。自分で自分のことがわかっていないと工夫のしようもないじゃない? 工夫というのは変化前に戻そうとすることじゃなくて、今の自分を大事にすることなんだよね。私の場合、太陽が大好きだから、どうしてもシミもたくさんできる。だからケアに気をつけて、ツヤは失われないようにしていて。

水野:シミが嫌なら日に焼けなきゃいいという話でもないんだよね。太陽は大草さんの人生にとって大切なものだから、それでできたシミは消したり隠したりするんじゃなくて、ツヤを足すという工夫で生かしてあげるということでしょ? 私の場合、工夫というかどうかわからないけれど……。若い頃に比べると太ったんだけど、太っているときだからこそ着たい服というのもあって。たとえばデニムはヒップがあるほうが似合うなと思っているし、メリハリのあるドレスなんかもふくよかなときのほうが着たときにサマになってると思うんだ。

大草:逆に違うなと思ったら、怖がらずに変えていくことも必要。ずっとおでこを出してきゅっとひとつ結びするスタイルが定番だったんだけど、鏡を見るたびに違うなと思うことが増えて、髪も切ったし、結ぶとしてもゆるっと結んでいます。

水野:確かに髪型を今の自分に合うものに変えることもポイントかもしれない。私もずっとベリーショートが鉄板で、迷ったらベリーショートにすれば間違いなかったんだけど、昨年くらいかな、なんだか違和感が出てきて、今くらいの長さに落ち着きました。ずっとベリーショートにすると褒められたし、自分でも似合っているなと思っていたから、ちょっとびっくりしたけれど。

大草:そういう変化があったときに、昔の自分に無理に近づけたり、戻そうとするんじゃなくて、変化に気づき、認めて、今の自分に合うものを模索していきたいよね。

「今日、いい感じ!」と思ったら、メイクを減らしてみる


水野:熱くなっちゃって、あまり具体的なメイクのポイントのお話できてなかったね(笑)。なかなか誰にでも通じること、というのは難しいんだけれど、ひとつ言えることは「ルーティンでメイクをしないこと」。みんな、スキンケアして、下地、ファンデ、アイブロウ、アイシャドウ、アイライン、マスカラ、リップ、チークまで全部したらメイクが完成と思っている人も多いけれど、その日の自分の顔を鏡で見て、減らしていっていいと思うんだ。たとえば、朝に鏡を見て、むくみもなく顔がすっきりしてるなと思ったら、アイラインを抜いてみる。

大草:今回のモデルの前田ゆかさんのメイクも、アイラインとマスカラもしてないんだよね? 前田さんの凛とした感じが際立ってて素敵でした。

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水野:前田さんの良さを際立たせたということもあるんだけど、大草さんが提案するコーディネートに寄り添った感じかな。「大人の女性は強くていいし、かっこよくていい」というコーディネートから発信されるメッセージを、より伝わりやすくするには、意志の強さを感じさせる眉とシンプルな目元かなと思って。ヘアもまさにそうだったよね。

大草:本当にそうだった! ヘアメイクと服を分けて考えてしまうと、できないことだよね。それぞれ相互関係があって、ひとつのスタイルができあがるんだから。

水野:もちろん私はメイクアップが仕事だから、しっかりとメイクしたスタイルも作品としては好きなんだけど、日常で着こなしと一緒に考えるとしたら、良さを際立たせるために整えていく、くらいの感覚でメイクするのがいいと思うよ。

 
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