円山応挙「雪中狗子図」 個人蔵(前期展示)

東京・府中市美術館では、開館20周年記念『動物の絵 日本とヨーロッパ ふしぎ・かわいい・へそまがり』展が、11月28日(日)まで開催中です。

 

芸術の秋、各地でさまざまな展覧会が開かれていますが、なかでも本展は日本画・西洋画のファンはもちろん、アートにはそこまで詳しくないという人にも自信を持ってオススメしたい展覧会です。その理由を、多彩な展示作品と合わせてご紹介します。

 


日本と西洋、比べてこそ分かるその独自性


府中市美術館といえば、これまで「かわいい江戸絵画」(2013年)、「へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで」(2019年)など、日本美術をユニークな視点で切り取った企画展が毎回人気を博してきました。そんな美術館が、なぜ20周年記念の展覧会で、日本画だけでなく「日本とヨーロッパ」をテーマにしたのか。日本画ファンにとってはちょっと意外だったかもしれません。

それは日本と西洋を比べることで、それぞれの特徴をより深く捉えることができるから。じつは日本は、世界の中でも動物の絵がとても多い国なのだとか。それに比べると、西洋の動物画はごくわずかだそう。背景にあるのは、それぞれの土地に根付いた宗教観の違いです。


すべての命を慈しむ仏教の教えが根付いた日本では、姿かたちの美しさ、人とは違う存在に惹かれた画家たちが、たくさんの動物の絵が生みだしました。釈迦の臨終の場面を描いた「涅槃図(ねはんず)」にはさまざまな動物たちが集まり、弟子とともにその死を悲しむ様子が描かれています。しかし同じように仏教が浸透した国であっても、インドの涅槃図に動物の姿は描かれず、中国でも動物のいるものは少ないのだそうです。

「涅槃図」 個人蔵(後期展示)

一方、西洋文化の根幹をなすキリスト教では、動物を崇めることは禁じられており、またその世界観の中心は「人間」です。動物たちはあくまで脇役、もしくは人間より下の存在とされていました。人を愛する心を知らない王子様が、“罰”として醜い獣の姿にされてしまう「美女と野獣」の物語はその代表例ですね。

ウォルター・クレイン「美女と野獣」 町田市立国際版画美術館(全期展示)

そのため芸術の世界でも、ただ美しいから、描きたいからという理由だけで動物を主題とすることは長く許されなかったそうです。とはいえ、動物たちに魅了され「描きたい」と求めてやまない画家たちの思いはどの国も同じ。またそうした厳しい制約があったからこそ、「魚=キリスト」のように、動物に何かを象徴する役割を与えるなどの複雑な表現が生まれていきます。

アルブレヒト・デューラー「アダムとエヴァ」 上原美術館(全期展示)

こうしてそれぞれの背景が分かると、私たちがさまざまな動物の絵を当たり前に親しんでいる環境が、実はかなり特別なものであることがわかりますよね。またそれに気付いた後では、誰もが知る「鳥獣戯画」も、過去の展覧会で一躍スターとなった「徳川家光 兎図」もいっそう味わい深く見えてくるから不思議です。

上田耕冲「鳥獣戯画」(模本) 個人蔵(全期展示)

もちろん、本展の魅力はこれだけではありません。本展ではさらに、動物絵から読み解ける東西それぞれの死生観、神秘性の捉え方の違い、東西それぞれの擬人化が表す意味などを豊富な作品ともに掘り下げていきます。ここから先は、それまではただ漠然としか捉えられていなかった絵から、解説を読んだ途端にいろいろなものが浮かび上がって見えてくる、あの快感の連続です。ぜひ会場で味わってくださいね。


おうちで動物たちを愛でられる公式図録も!

『動物の絵 日本とヨーロッパ ふしぎ・かわいい・へそまがり 公式図録』府中市美術館 編・著 2970円(税込) 講談社・刊

行きたいけど今はちょっと難しい……という方は、公式図録で楽しむのはいかがでしょうか。前期・後期の展示作品をほぼ網羅した全183点を収録、とにかく展示構成が素晴らしい本展の魅力を余すことなく詰め込んだ一冊です。府中市美術館1階のミュージアムショップで購入すると、会場特典として表紙にも登場している徳川家光による「木兎」のステッカーが付いてきます(数量限定)。一般書籍なので全国書店、インターネット書店でも好評発売中です。

 

府中市美術館 開館20周年記念
『動物の絵 日本とヨーロッパ ふしぎ・かわいい・へそまがり』展


会期:2021年9月18日(土)~11月28日(日)
(前期:7月20日(火)~10月24日(日)、後期:10月26日(火)~11月28日(日))
会場:府中市美術館 東京都府中市浅間町1-3
開館時間:午前10時~午後5時(入館は4時30分まで)
休館日:毎週月曜日
公式HP:https://www.city.fuchu.tokyo.jp/art/index.html

 

チケット読者プレゼントのお知らせ
5組10名様に『動物の絵 日本とヨーロッパ ふしぎ・かわいい・へそまがり』展
鑑賞券をプレゼント

府中市美術館で開催される『動物の絵 日本とヨーロッパ ふしぎ・かわいい・へそまがり』展
(2021年9月18日~11月28日)の観賞券をプレゼントいたします。

応募締め切り:10月19日(火)〜11:59まで
●応募にはmi-mollet(ミモレ)の会員登録(無料)が必要です。
●プレゼントのご応募は、1回までとさせていただきます。
●当選者の発表は賞品の発送をもってかえさせていただきます。

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文/山崎 恵