丹羽 杉本(昌隆)師匠や文本(力雄)先生のもとで刻み込まれた、将棋に対する考え。これは、すごく大きな影響を持っていると僕は思う。でも、ただ行くだけじゃだめだよね、行くだけならあなた以外にもたくさんの人が行っています。将棋教室や師匠のところに行ったときの自分と、家庭に帰ってきたときの自分とをつなぐものが、「家庭のなかでの会話」だったと思うんですよ。それが頭のなかに刻み込まれて、今のあなたの力になっているんだと思います。
藤井 確かに自分の場合、教室などで学んだことを家でまたいったんアウトプットできるというか、そんなところが良かったのかなと思います。振り返ってみると、やはり自分が将棋を好きでたまらないこと、自分にとって大切なものだということを、家族が認めて応援してくれていて、そういう環境は大きかったように思います。
丹羽 将棋と家庭とのつなぎ。そこにお母さんや家族の役割って、大きいんじゃないかなと思うわけです。だから今日の藤井さんがあるのも、お母さんのおかげかもしれない。お母さんが将棋のことを教えたわけじゃないんだけど、「雰囲気」ですよね。自由に研究させて、自由に勉強させて、何かあったときに、何してるの? とか声をかけて、いろいろな話があったんじゃないですか。世界的ピアニストの辻井伸行さんのお母さん、辻井いつ子さんとお話ししたことがあるんですよ。彼女が子育てで、「これを教えたらいい」とか「これを話したらいい」などと一概に言えないものを、「雰囲気」と呼んでおられたんです。人と人の間にある雰囲気にも、大きな意味があるとおっしゃっていました。
著者プロフィール
丹羽宇一郎(にわ ういちろう)さん:
伊藤忠商事株式会社名誉理事、公益社団法人日本中国友好協会会長、一般社団法人グローバルビジネス学会名誉会長、元中華人民共和国駐箚特命全権大使。1939年、愛知県名古屋市生まれ。名古屋大学法学部を卒業後、伊藤忠商事に入社。1998年、社長に就任。翌年、約4000億円の不良資産を一括処理し、翌年度の決算で同社史上最高益(当時)を記録。2004年、会長に就任。内閣府経済財政諮問会議議員、内閣府地方分権改革推進委員会委員長、日本郵政取締役、国際連合世界食糧計画(WFP)協会会長などを歴任し、2010年、民間出身では初の駐中国大使に就任。著書に『人は仕事で磨かれる』(文春文庫)、『仕事と心の流儀』『社長って何だ!』『部長って何だ!』(以上、講談社現代新書)、『死ぬほど読書』『人間の器』(以上、幻冬舎新書)など多数。
藤井聡太(ふじい そうた)さん:
将棋棋士。杉本昌隆八段門下。2002年、愛知県瀬戸市生まれ。小学四年生で奨励会に入会。2016年10月、史上最年少の14歳2ヵ月で四段昇段・プロ入り。以降、プロデビューから無敗のまま29連勝で歴代最多連勝記録を更新。2020年7月16日、棋聖を獲得し史上最年少タイトル、8月20日には王位を獲得し史上最年少二冠を達成するなど数々の最年少記録を更新中。公式戦勝率もデビュー以来、4年連続で8割を超える。2021年7月3日、棋聖を防衛し史上最年少で九段に昇段。
『考えて、考えて、考える』
著者:藤井聡太/丹羽宇一郎 講談社 1540円(税込)
将棋に出会った幼少期から、学校に行くことの意味を考えながら通った高校時代、コロナ禍での日常生活まで。名経営者の丹羽宇一郎さんが天才棋士・藤井聡太さんの19年の半生とそこで育まれた内面を、対話を通して明らかにしていきます。「ラップ調の歌にして悔しさを書き残していた」といったほほえましいエピソードも多数登場。藤井さんの人間的魅力にたっぷり触れることができる一冊です。
構成/さくま健太
この記事は2021年10月27日に配信したものです。
mi-molletで人気があったため再掲載しております。
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