「緩和ケア」と聞くと、「がんの終末期に行われる、治療を中止して穏やかな死に向かうための医療」をイメージする方は多いかもしれません。ですが、緩和ケア医の大津秀一先生は、著書『幸せに死ぬために 人生を豊かにする「早期緩和ケア」』の中で、緩和ケア=末期医療という考えは頭から捨て去ってほしい、と訴えます。

緩和ケアは、患者さんとその家族の「QOL(生活の質)」を上げるためのアプローチ。だからこそ末期に限らず、“早期から・治療と並行して”受けることが重要、と大津先生。がんだけでなく、重い病気の治療中は身体以外の不調もきたしやすく、不安や悩みに苛まれることも。そうした「心のつらさ」も改善に導くのが緩和ケアであり、時として“スピリチュアルなつらさ”の改善にも取り組むと言います。信仰や祈りとは異なる、緩和ケア医による心の救済とは一体どのようなものなのでしょうか? 本書から教えてもらいます。

 


緩和ケアが和らげる「4つのつらさ」とは?


緩和ケアでは、様々な「つらさ」を和らげることを目的にしています。
つらい症状は大きく以下の4つに分類されます。「身体のつらさ」「精神のつらさ」「社会的なつらさ」、「スピリチュアルなつらさ」です。

 

このうち、あまり耳にしない、「スピリチュアルなつらさ」とは、主として重い病気に伴って、生きる意味や死の恐怖などの「存在に関するつらさ」が出現することです。簡潔に言えば、「存在の意味のゆらぎ」でしょう。これについては後ほど詳しく説明します。

緩和ケアに従事する医療職や介護職は、この4つのつらさを把握するように努めます。
これらは絡み合っており、相互に影響し、場合によってはそれがより深刻な生活の質への障害となって現れることもあります。

このため、優先順位を考え、問題となっている度合いが高いものから解決するために、丁寧に支援を図っていきます。

具体的な例を挙げましょう。60代女性で乳がんの患者さんだった鈴木さん(仮称)は、抗がん剤治療の吐き気が強いとのことで、乳腺科の主治医から紹介されました。

確かに吐き気はずっと続いているとのことでした。ただ、しっかり話を聞くと、この症状が続いているため次第に気持ちもうつうつとし、何も楽しめなくなり、不眠や食欲不振、体重減少など、様々な苦痛があわせて出ているとのことでした。

このような苦しさを訴えながら、鈴木さんは「自分はだめな人間なんだ」「こんなつらくて……もう死んだほうがいい」「生きている意味がない。早く楽にしてください」などと、とめどなく涙を流されました。