また、こうした「薬の飲み合わせ」問題は、患者さんが数多くの薬を飲んでいる状態=“ポリファーマシー”で特に起こりやすくなります。多数の薬を飲んでいるわけですから、確率論として当然リスクが高まるわけですが、数が増えることで確認漏れのリスクも増えます。こうして、人を助けるはずであった薬が体内の薬の働きを変え、健康被害につながることがあるのです。
ポリファーマシーで生じる副作用のリスクとは?
また、ポリファーマシーは、それ自体が薬の副作用に直面するリスクを高めます。それは高齢者になると尚更です。
そもそも人間は、加齢に伴って臓器の機能や代謝に変化が起こり、年齢とともに薬が代謝されにくくなる傾向をとります。10年前には何の問題にもならなかったような薬でも、10年後に飲んでみたら薬の効果が長引くようになった、薬が効きすぎるようになった、ということも珍しくはありません。
このため、加齢とともに、薬の副作用のリスクは高まると言えます。その上で、ポリファーマシーとなれば、薬の数だけそのリスクを高めることになってしまいます。
実際に、ポリファーマシーは、入院のリスク増加と関連すること(参考文献1)や、各疾患の影響を調整した上でも、身体機能や認知機能の低下と関連することが報告されています(参考文献2)。
また、ポリファーマシーが高齢者の股関節骨折の独立した危険因子であったとする報告もあります(参考文献3)。これは、飲んでいる薬の数だけ、転倒に関連するような薬剤にさらされる可能性が高いことを意味しているのかもしれません。
加えて、ポリファーマシーは、副作用のリスクを高める結果、薬の副作用がさらなる薬の処方を招く「処方カスケード」の可能性も高めます(参考文献4)。そうして、さらに薬が増えるという悪循環に陥ってしまうのです。
以前ご紹介したCさんは1日あたり40錠の薬を飲んでいてご飯が食べられなくなってしまった方でしたが、実に半数もの薬が不要な薬であると判断されました。ここでも、薬の副作用が次の薬を呼ぶ「処方カスケード」が起こっていたのだと思います。
このように、いつの間にか年数を重ねながら不要な薬が増えていってしまい、年齢とともに薬の代謝が悪化し、気がつかないうちに薬によって体調を悪くするということにつながっていくことがあるのです。
前回記事「「グレープフルーツ問題」って?「薬の飲み合わせが悪い」ってどういうこと?【医師・山田悠史】」はこちら>>
参考文献
1 Wimmer BC, Cross AJ, Jokanovic N, et al. Clinical Outcomes Associated with Medication Regimen Complexity in Older People: A Systematic Review. J Am Geriatr Soc 2017; 65: 747–53.
2 Rawle MJ, Cooper R, Kuh D, Richards M. Associations Between Polypharmacy and Cognitive and Physical Capability: A British Birth Cohort Study. J Am Geriatr Soc 2018; 66: 916–23.
3 Lai S-W, Liao K-F, Liao C-C, Muo C-H, Liu C-S, Sung F-C. Polypharmacy correlates with increased risk for hip fracture in the elderly: a population-based study. Medicine (Baltimore) 2010; 89: 295–9.
4 Rochon PA, Gurwitz JH. Optimising drug treatment for elderly people: the prescribing cascade. BMJ 1997; 315: 1096–9.
写真/shutterstock
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