美術館の観客とBTSのファン、根本的に違いはないと思っている


——RMがアンさんの絵を鑑賞しエッセイを読んだことについて、どのように感じましたか?

アン:私は美術館の観客とBTSのファンは、根本的に違いはないと思っています。使っているメディアやストーリーを伝える手法は異なりますが、私もBTSも現代の社会と暮らしを語るという点では同じです。それにもかかわらず、いわゆるポップカルチャーと芸術の間には、見えない境界線がずっと昔から存在しています。私が美術館やギャラリーで出会う観客は、BTSを愛する世界中のファンに比べれば、ごく少数に過ぎません。『それぞれのうしろ姿』も限られた人だけが手に取るのだろうと思っていました。ところが、RMが読んで「植物の時間」をBTSのファンに紹介したために世界中のARMYが私の文章を読むという、驚くべきことが起きたのです。漠然と距離があった隣人に、思いもよらない招待状をいただいたような気分です。
 

RMは度々美術展に訪問する様子をツイートしています。

 


——BTSの楽曲は聴きますか? 彼らの楽曲には必ず背景があるようですが、その解釈については受け側に委ねられており、『それぞれのうしろ姿』に通じるものがあるように思います。その点について、お気づきのことがあれば教えてください。

アン:正直に申し上げると、ビートが速いBTSの音楽についていくのは、たやすいことではありません。1970年代の洋楽に親しんだ世代の限界と言えるでしょう。それでも、メロディーとリズム、華やかなミュージックビデオやパフォーマンス、そして詩的な歌詞の意味を考えながら、自分なりに楽しんでいます。BTSの音楽には、特定の世代だけでなくすべての人に響く普遍性があると感じます。今という時代に対して意味のある問いを投げかけ、正解を導くのではなく解釈の可能性を開いておく。これは私が美術や執筆をするうえで大切にしていることですが、BTSも同じ点をはっきり意識していると思います。

——アンさんは過去に日本に取材や大学の特別講師として来日されていますが、インスパイアされた日本の文化や芸術があれば教えてください。

アン:雑誌記者の仕事をしていた1986年、出張で半月ほど東京に滞在しました。mi-mollet編集部もある講談社や美術手帖など雑誌社を訪れ、東京都美術館で開かれたナムジュン・パイクの回顧展を取材しました。その時に国立博物館で見た繊細で感覚的な日本の古美術に惹かれました。同じ博物館に展示されていた江戸時代の刀や鎧と劇的な対比を成していたことが、とても印象的で記憶に残っています。