恋愛って、当事者にしかわからないことが多いもの。そのため、二人の間に起こった出来事を伺い知ることは難しいし、そもそも、双方の感じ方や考え方が完全に一致することはないわけで、当事者から話を聞けたとしても、実際のところはどうなのかわからない。そう考えると、恋愛にはミステリーやサスペンスの一面もあるとは言えないだろうか?(ってちょっと強引か……)。現在、ヤングマガジンで連載中の『犬と屑』が、連載直後からSNSなどで「続きが気になる!」「めっちゃドロドロしてる」「やべーやつだらけ」などと話題になっています。

『犬と屑(1)』(ヤンマガKCスペシャル)

学生時代に密かに憧れていた人がいたとして、大人になってその人が困っていたらあなたはどうしますか? 「役に立ちたい」「手を差し伸べたい」と思ってしまうのではないでしょうか?

 

『犬と屑』の主人公である桜庭陽真は、常におどおどしていて、周囲にも舐められがちなサラリーマン。地元の北海道で働いていて、会社の飲み会でも、何かといじられがち。「プライドねーのかな」と先輩に笑われても、強く出られずにいます。

 

実家に帰ると、母に「ほんとにもぉ あんたは昔から何っにも出来ないんだから」と言われ、少しずつ自尊心が削られていきます。そして“お隣のシュウくん”と比較されるのがお決まりの流れ。“お隣のシュウくん”とは、陽真が小学校から高校までずっと一緒だった、幼馴染で隣に住む犬飼秀司のこと。イケメンで成績優秀、運動神経も抜群、いつも人の輪の中心にいる人気者でした。

 

中学時代は彼女を取っ替え引っ替えしていた秀司ですが、高校で鷲見麗香(すみ・れいか)と出会い、それからは麗香と長く付き合うようになっていました。とにかくかわいくて、クラスで存在が薄い陽真にも分け隔てなく接してくれる女の子でした。

秀司と麗香は高校卒業後に上京し、一緒に暮らし始めます。秀司は大学でも相変わらず人気者で、ミスターコンテストでグランプリに輝き、首席で卒業し、大手企業に入社と無双状態。やがて二人は結婚します。何もかも完璧な幼馴染が身近にいるために、劣等感を抱き続けることになる陽真。

 

休日に久々に冬物の服を買いに出かけた陽真は、雪で滑って転んでしまいます。「大丈夫?」と声をかけてきたのは、あの麗香でした。

 

秀司と結婚して東京にいるはずなのに、北海道に戻ってきている麗香。顔色が悪そうに見えたけど、相変わらずかわいいなと陽真は惹き込まれます。麗香から「お茶しない?」と誘われ、カフェに入る二人。陽真が「秀司もこっち来てるの?」と聞いたところ、なぜか気まずい雰囲気が流れ、麗香が店を出てしまいます。追いかける陽真は、「満喫に泊まるつもり」という彼女をこのまま一人にしておけず、思わず「今日は俺のとこ泊まれば?」と一言。ところが、自分から切り出しておきながら、いざ麗香が家に来ると動揺しまくり。

別室で寝ようとする陽真のもとに、パジャマの上着一枚の麗香が現れ、「眠れなくて ちょっと話さない?」と声をかけてきます。「ほんとごめんね・・・・」とうつむいて謝る麗香を見て、居ても立っても居られなくなった陽真は麗香を抱きしめます。相手は幼馴染と長く付き合い、結婚した麗香。彼女のことを密かに想い続けていた陽真は、ずっと彼女のことが好きだったという自分の気持ちに改めて気づくのでした。

 

と、ここまでなら学生時代の淡い恋心から始まるラブストーリー? と期待が高まるところですが、2話目以降から黒いシミが少しずつ広がるように、じわじわと不穏な空気が支配していくようになります。既に1話目から、麗香の様子が只事ではない様子。自尊心低めの陽真が、密かに思いを寄せる麗香のためになんとか力になりたいと奮闘するいい話になるどころか、麗香の本心はなかなか見えず、陽真が秀司にメッセージを送っても既読にならず、そして1巻の後半では衝撃の出来事が明らかになります。

この物語は、陽真の目線で語られているため、突然目の前に現れた麗香が何を考えているのかわからないし、読み手も断片的な情報しか得ることができません。小説の手法に、「信頼できない語り手」というものがあります。これは、一人称の語り手が必ずしも正しいとは限らず、もしかしたら嘘をついているかもしれないし、本人が重大な問題を抱えている場合もあるというものです。

陽真は「信頼できない語り手」なのか。そして、タイトルの「犬と屑」も、誰が犬で、誰が屑なのか。惚れた弱みか、麗香のために奔走する陽真が“犬”のように見えますが、それもまたミスリーディングなのかもしれません。秀司の名字が「犬飼」というのも気になるし……。

とにかく試し読みの1〜3話を今すぐ読んで! そして、誰かと全編に散りばめられた謎について考察したり、これから出てくる、一癖も二癖もある登場人物のヤバさについて語ったりしたい! 本作は作画が非常に繊細で美しく、特に麗香の美しさは突出しています。だからこそ、麗香が時折見せる表情や、何を考えているのかわからない瞳に底知れない恐ろしさが感じられます。10月に発売したばかりの1巻を一気読みした後は、ヤングマガジンやコミックDAYSで最新話まで追いかけずにはいられない。最新話まで読んだら、次は毎週「えー、どういうこと!?」と焦らされまくることになりますが、リアルタイムで追わずにはいられなくなる!

 
 

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『犬と屑』
朝賀庵 講談社

自分より全てにおいて上で、華々しい人生を送る幼馴染・秀司。冴えないサラリーマン・陽真は、昔からその存在にコンプレックスを抱いて日々を過ごしてきた。そんな時、陽真は偶然秀司の妻・麗香と再会する。彼女は、陽真が学生時代から密かに憧れていた存在。羨望と嫉妬、そして××によって、陽真の繰り返しの日々に“秘密”が生まれていく――。