人生の隠し扉の見つけ方


この会社で、私は初めて自分は何が得意なのか、どうしたら人の役に立てるのかを知ることができました。

配属されたのはホストタウン事業を担う部署。オリンピックやパラリンピックの各国選手団合宿地となった土地を、これを機会にさらに活性化させるのがミッションです。

人と人を結びつけ、協働して場を動かす感覚。覚えがあります。大学時代に感じたチームの楽しさでした。私はここで、今までは何だったのかと思うほどに、力を発揮することができました。

夢中で仕事をするうちに、信用がついてきました。ある時、パラスキーの広報映像を作ることになり、これぞと思うクリエイターを推薦、それが通ったんです。自分の情熱や人脈、感性を役に立てることができる。エキサイティングな経験でした。この楽しみを味わったら、他の仕事ができないかも、というくらいのめりこみました。

また、プライベートでは、前職で知り合った彼と結婚します。

私は彼のことを「港系オット」と呼んでいるんですけれど(笑)、私がどこで何をしていても応援してくれて、港のように受け止めてくれる心の広い夫です。じっとしていられない私と、海でも山でも一緒に来て楽しんでくれるし、忙しくて飛び回っていてもひたすら応援してくれます。

そんなパートナーを得て、私はますます仕事に没頭しました。楽しくて頑張るから、結果がでる。そんな好循環でした。

……数年前の私とは別人です。この経験から皆さんにお伝えしたいことは、「人には得意・不得意がある。自分の良さを発揮できる場所がどこかにある」ということ。置かれた場所で咲く、という考えもあると思いますが、少なくとも私は、そうじゃないパターンでした。

どちらでもいいですよね。自分が自分らしくいられるところや、心地いい態度があるはず。どうか無理をしすぎず、心の声に耳を傾けてください

さて、広告会社で夢中で走って2年が経つ頃、二つの変化が起こりました。

SNSや仕事で交友関係が広がっていき、周囲に起業したり、フリーランスで活躍したりする女性の知り合いが増えてきたんです。

これまで、なんだかんだ会社員としての働き方に拘っていた私は、彼女たちと仲良くなるにつれて、いい意味で「特別じゃない」人たちだと感じました。

誤解を恐れずに言えば、普通の女性でした。イメージしていた、バリキャリの起業家とは少し違います。おまけにすごく楽しそう。自分のスキルやコネクションを生かして、プロジェクトごとに自由にチームを組む様子はまさに目からウロコ

そんな人たちの影響を受けて、何か自分も好きなことをやってみようと思うようになります。

ちょうどそのとき、仕事で知り合った日本スキー連盟の理事の方が、「深井さん、英語もスポーツも得意なら、ちょっと通訳としてイベントに来てくれない?」と声をかけてくださったんです。

「プロの通訳じゃないのに、こんなすごい国際会議で、いくらボランティアでも大丈夫かな?」と思いました。でもここは腹をくくって、せっかくそんな機会をいただいたんだからと飛び込んでみることに。

「置かれた場所で、咲けないこともある」会社員を辞めて気づいた本当にやりたかったこと_img0
 

ここで「お金にならない」とか「会社員で本業が忙しい」「まだスキルが足りない」と断っていたら、確実に私の今のパラキャリアはありません。もし、好きなことが副業になればいいなと思っている方がいたら、まずはどんな条件でも一歩、踏みだしてみてはいかがでしょうか。意外なところに、人生の隠し扉があるかもしれません。

そう、この二つの変化が、いよいよ私の副業の始まりです。

 

最終回は、スポーツ通訳を副業に育てた方法と、家業とコラボして起業を決意した経緯についてお話しさせていただきますね。
 

「置かれた場所で、咲けないこともある」会社員を辞めて気づいた本当にやりたかったこと_img1
 

深井瑛子さん
1988年生まれ、大阪府出身。中学からインターナショナルスクールに進学、高校1年時にアメリカ・インディアナ州に留学。慶應義塾大学総合政策部卒。
現在は広告会社に勤務するかたわら、独立に向けての準備として実家の事業を展開し、The Crafted GINZAを運営。来年から独立し、日本パラスキー代表チームの広報・通訳として世界大会に帯同予定。
Instagram: @vitamin_kiki
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取材・文/佐野倫子
構成/山本理沙
写真提供/深井瑛子さん
 

 


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