ウェブマガジン「ミモレ」とその読者コミュニティ〔ミモレ編集室〕に寄せられた皆さんのモヤモヤエピソードをもとに、日常で感じる「ちょっとした違和感」について井戸端会議していくこの連載。

今日は、私もまったく同じ経験があり、「このモヤモヤ、人に言っても大丈夫かな……」と思ったことがある、親切に関するモヤモヤエピソードをご紹介します。

 


人気パン屋さんのいつもの行列、泣き出す男の子


エピソードをお寄せくださったのは、夫婦で二人暮らしのリカコさん(36歳・会社員)。

近所で人気のパン屋さんで、いつものように行列に並んでいたときのこと。もう少しで私の番だな~と思っていたところ、私の後ろに並んでいた女性が列の近くで遊ばせていた男の子が、転んで泣き始めました。女性は慌てて列を離れ、男の子をなだめます(ちょっとつまづいたくらいで、怪我をしたようには見えませんでした)。しばらくして列に戻ろうとしたとき、列の先頭にいた別の女性が、「お先にどうぞ~!」と言って子連れの女性に順番を譲ったんです。

内心「え!」と思ったのですが、譲られた女性は「すみません~」と頭を下げながらお店に入って行ってしまい、何も言えず……。お店から出てきてからも、「ありがとうございました~」とおっしゃっていましたがなんとなく反応できませんでした。


行列の先頭にいた女性が、後に並んでいる人の了解をとらずに順番を譲ってしまったんですね。リカコさん含め、後に並んでいる人からすると順番が一人分後になってしまったということになります。しかもここは人気のパン屋さん。一人分の差で売り切れてしまうパンがあるのかもしれないぞ。

 


「親切」「善行」は、人に押しつけても許されるの?


「それは私もモヤモヤする。順番を譲るなら、自分は最後尾に移動するべき」
「大変そうな人には親切にしようよ。むしろあなたは順番を譲ってあげたいと思わないの?」

今回のケースは、子連れの女性の状況がどれくらい緊迫していたかが曖昧なので、特にモヤモヤ度が高いような気がします。これが例えば、男の子がけがをしていたら、リカコさんも何も考えずに順番を譲ったことでしょう。(そもそもパンを買うことを中止していたかもしれませんが)

親切にも、優しさにも、絶対不変の「定義」や「常識」があるわけではありません。人それぞれ、考え方や置かれた状況によって「何を親切とするか」は違うはず。そのことを心に留め、自分の親切によって他人に犠牲をしいないということは必要な配慮なのではないでしょうか。

リカコさんも、「せめて一言断ってくれていたら」と書いてらっしゃいました。先頭の女性が、「順番お譲りしましょうか。ね?」と列に並んでいた人たちに一言声をかけていたら、感じ方も違っていたかもしれないですね。「ごめんなさい。実は私、ちょっと急いでいるんです~!」と言い出せた人もいたかもしれませんしね。


とはいえ、この世には「緊急避難」というケースだってあるのだ


一方、モヤモヤ記事を書きはじめて強く思うことがあります。

「難しく考え過ぎて何もできない、ということになってはいけない」

モヤモヤに向き合い、分析し、「気を付けるべきポイント」を心のメモ帳に箇条書きにする。何か行動を起こすときは、チェックリストを確認した上で右見て左見て、更にもいっちょ右見てからゴーサインを出す。

それはとても大切なことだと思っているのですが、「自分や他人をモヤモヤさせないために、むしろ何もしない」みたいになってはいけないなと。


法律には、「緊急避難」という、緊迫した危険を避けるためにやむを得ず他人の権利を侵害することは一定の条件のもとで許されるという考え方があります。

「あ、大変だ!」という場面にぶち当たったとき。傍目にはそう見えないかもしれないけれど、自分の角度から見たその人の表情になんだか不穏なムードを感じたとき。(順番を譲った女性も、実はそう感じていたのかも)

そんなとき、ごちゃごちゃ理屈を考えずにさっと手を差しだせる人間でありたいとも思うのです。「考えること」の行きつく先が「リスクヘッジのための冷たい無関心」というのはなんとも寂しいものですよね。


「いいこと」こそ、無自覚に人に押しつけてしまいがちということには気をつけなければいけない。でも、いざというときにはリスクをとってでも人を助けられるような柔軟さを持ちたい。こんな、パッと見矛盾するような思いを抱いたモヤモヤエピソードでした。皆さんはどう思われたでしょうか。

【次々回エピソードの予告】
次々回は、自己紹介にまつわるモヤモヤについて取り上げます。

「最近、若い世代の起業家や起業したいという意欲を持った方々と知り合う機会がありました。その中の一人がとても明るく元気で、お喋りも盛り上がり楽しい時間を過ごしました。後日、改めてのご挨拶と自己紹介ということでメールが届き。『丁寧な人だな~』と拝見したら、書かれていたご自身の経歴にモヤついてしまったんです。挫折から始まるストーリーという風に構成されていて、その挫折が『地元の某公立大学に進学しなくてはいけなかったこと』。そこ、私の出身大学なんです……! その方にとっては挫折であっても、私にとっては挫折じゃないんだけどなあと、ちょっと悲しい気持ちになりました。」
(マリさん)


皆さんはどう思われますか?
この連載では、読者の皆さんと一緒にモヤモヤ問題について考えていきたいと思います。
こちらのコメント欄か記事下部のアンケートフォームよりご意見をお聞かせください。

皆さんのモヤモヤ話を教えてください!

職場や家庭で、イラっとしたけど言えなかった、違和感を感じたけど言葉にできなかった、モヤモヤしているのは私だけ? と思った経験がありましたら教えてください。エピソードを掲載させて頂く際はミモレの会員ニックネームではなく、仮名でご紹介します。皆さまからのエピソード投稿をお待ちしております。

応募する

〔ミモレ編集室〕は、ミモレのオフィシャルコミュニティです。「好きを伝え、つなぎ、つながる」をキャッチフレーズに、〔ミモレ編集室〕メンバーの一人一人がこれまでに培ってきた美意識や好きなこと、最近気になっていることなどを自由にシェアし、繋がる場です。

構成・文/梅津 奏

前回記事「【割り勘問題】金の切れ目が縁の切れ目...にならないために考えたいこと」>>