加齢とともに小さくなる「腎臓の老化」
腎臓にも変化が見られます。そもそも腎臓の大きさは年齢とともに小さくなることが知られており、30歳から80歳にかけて約3割減少することが報告されています(参考文献8)。
また、腎臓の血管の数も減るため、腎臓の血流が若い頃と比べて約6割まで落ち込むことが知られています(参考文献9)。血管の数が減るというのは、血管の中を流れる血液の細胞を車に例えると、道路が減るようなものです。すると、渋滞が起こりやすくなってしまうので、一つ一つの道路の車線を増やして対応しようとします。
ここでいう道路の車線を増やす拡張は、血管を広げるという変化を意味しますが、そのために活躍する物質はプロスタグランジンと呼ばれるものです。高齢者の腎臓では、このプロスタグランジンという物質が増えて、血管を広げていることが知られています(参考文献10)。このように、体は機能を維持しようとしているのです。
しかし、このプロスタグランジンは、頭痛薬などとして用いられるイブプロフェンやロキソプロフェン(ロキソニン®️)と呼ばれる痛み止めで減ってしまうことが知られています。すると、血管を拡張して対応していた腎臓がたちまちそのキャパシティを失いシャットダウンしてしまうことに繋がります(参考文献11)。
こういった理由で、若いうちには安全に使用できていたイブプロフェンが、歳とともに「危険な」薬に変化してしまうのです。
一方、歳をとっても変わらないこともあります。例えば、ミネラルバランスを維持する能力は歳をとっても保たれることがよく知られています。
また、赤い血を作る「赤血球」という細胞を作るのに活躍するエリスロポエチンという物質は腎臓で作られることがよく知られていますが、このエリスロポエチンの産生能力も年齢では変化しないことが知られています(参考文献8)(一方で腎臓に障害が起こると、このエリスロポエチンを作れなくなり、貧血が起こります)。
腎臓の機能は、このような変化を背景として、全体として、年齢とともに低下してしまうのですが、活動的で運動習慣のある人では維持されやすいことも知られていて(参考文献12)、臓器の加齢も、生活習慣一つでその速度が大きく変わることが伺えます。
ここまで、心臓、そして腎臓の加齢による変化を見てきましたが、こういった臓器レベルの変化というのは、多かれ少なかれどんな臓器にも少しずつ起こります。一方で、生活習慣の変化によって、そのスピードが変わりうることも知られています。
「健康な」生活習慣というのは、一つ一つの臓器を守る上でも大切なのです。
前回記事「「体調がいい=病気がない」は間違い!65歳以上の8割に慢性疾患がある【医師・山田悠史】」はこちら>>
参考文献
1 Blokzijl F, De Ligt J, Jager M, et al. Tissue-specific mutation accumulation in human adult stem cells during life. Nature 2016; 538: 260–4.
2 KITZMAN DW, SCHOLZ DG, HAGEN PT, ILSTRUP DM, EDWARDS WD. Age-related changes in normal human hearts during the first 10 decades of life. Part II (Maturity): A quantitative anatomic study of 765 specimens from subjects 20 to 99 years old. Mayo Clin Proc 1988; 63: 137–46.
3 Bergmann O, Bhardwaj RD, Bernard S, et al. Evidence for cardiomyocyte renewal in humans. Science 2009; 324: 98–102.
4 Zhang XP, Vatner SF, Shen YT, et al. Increased apoptosis and myocyte enlargement with decreased cardiac mass; distinctive features of the aging male, but not female, monkey heart. J Mol Cell Cardiol 2007; 43: 487–91.
5 Gates PE, Tanaka H, Graves J, Seals DR. Left ventricular structure and diastolic function with human ageing. Relation to habitual exercise and arterial stiffness. Eur Heart J 2003; 24: 2213–20.
6 Vilcant V, Zeltser R. Treadmill Stress Testing. StatPearls 2021. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29763078/ (accessed Dec 5, 2021).
7 Ozemek C, Whaley MH, Holmes Finch W, Kaminsky LA. High Cardiorespiratory Fitness Levels Slow the Decline in Peak Heart Rate with Age. Med Sci Sports Exerc 2016; 48: 73–81.
8 Denic A, Glassock RJ, Rule AD. Structural and Functional Changes With the Aging Kidney. Adv Chronic Kidney Dis 2016; 23: 19–28.
9 Fuiano G, Sund S, Mazza G, et al. Renal hemodynamic response to maximal vasodilating stimulus in healthy older subjects. Kidney Int 2001; 59: 1052–8.
10 Ungar A, Castellani S, Di Serio C, et al. Changes in renal autacoids and hemodynamics associated with aging and isolated systolic hypertension. Prostaglandins Other Lipid Mediat 2000; 62: 117–33.
11 Field TS, Gurwitz JH, Glynn RJ, et al. The renal effects of nonsteroidal anti-inflammatory drugs in older people: findings from the Established Populations for Epidemiologic Studies of the Elderly. J Am Geriatr Soc 1999; 47: 507–11.
12 Parsons TJ, Sartini C, Ash S, et al. Objectively measured physical activity and kidney function in older men; a cross-sectional population-based study. Age Ageing 2017; 46: 1010–4.
写真/shutterstock
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