東村さんが敬愛する「ディズニー・レジェンド」メアリー・ブレアとは

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『海月姫』『東京タラレバ娘』など、数々の大ヒット作を生み出してきた人気漫画家・東村アキコさん。その東村さんが「愛にあふれたアーティスト」とリスペクトする女性がいます。その名も、メアリー・ブレア。

メアリー・ブレアは、『シンデレラ』『ふしぎの国のアリス』など、ディズニークラシック映画のコンセプトアート(※注)を手掛けた、ディズニーの<伝説的>アーティスト。
※注 作品のトーンや世界観を固めるために描くイラストのこと

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1939年にディズニーに入社し、唯一無二の才能を輝かせたメアリー。その功績が認められ、没後の1991年、ディズニー社に大きく貢献した人物に贈られる名誉ある称号「ディズニー・レジェンド」を、女性で初めて受賞しています。

2011年には、スタジオジブリ主催で『メアリー・ブレア原画展』が開催され、チャーミングで個性あふれる作品たちが話題に。東村さんはその原画展の図録に寄稿し、トークイベントに参加したという縁があります。

 


そんなメアリー・ブレアの生誕110周年を記念して、メアリーの生涯を描いた絵本『Disney メアリー・ブレア イッツ・ア・スモールワールドができるまで』(講談社)が発売されました。

メアリー・ブレアとは、どんな女性だったのか。ディズニーにとって、どんな存在だったのか。金沢美術工芸大学出身で油絵やアートにも造詣が深い東村さんに、同じアーティストの立場から、メアリーの魅力について語ってもらいました。

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思い出の『イッツ・ア・スモールワールド』もメアリーのデザイン


「私がメアリーを知ったのは、漫画家になってから。三鷹の森ジブリ美術館の学芸員になった大学時代の先輩から、10年くらい前、『メアリー・ブレア展をやるから、手伝ってくれないか』と相談されたのがきっかけでした。『なんでジブリがディズニー?』と不思議に思って聞いたら、アニメーターの作品はキープしておかないとなくなってしまったり、倉庫に眠ったままになったりするから、スタジオジブリが原画を買って保有しているのだと。アニメの世界って独特のつながりがあるんだなぁと、ビックリしましたね。

そのとき『メアリーの絵は素晴らしいんだ』と、渡された資料を見て、メアリーが『イッツ・ア・スモールワールド』をデザインした人だと知ったんです」

世界各国の子どもたちが歌う「小さな世界」を聴きながら旅をする、東京ディズニーランドの人気アトラクション『イッツ・ア・スモールワールド』。実は東村さんにとって、特別なアトラクションだといいます。

「東京ディズニーランドがオープンした小学生のとき、親に頼み込んで、地元の宮崎から連れていってもらいました。そのとき、いちばん印象に残っているのが『イッツ・ア・スモールワールド』。アトラクションの前に立った瞬間、ふぁーっとパステルカラーの世界に包まれて、ふしぎの国に来たような、異世界転生したような、ものすごい衝撃を受けたのを覚えています。

当時はただ『かわいいな』『きれいだな』だけだったけど、大人になってから、母親になってから乗ると、子どもの頃とはまた違った感動があって、泣けてしまう。あの愛にあふれた世界とメアリー・ブレアがひとつに繋がって、彼女への興味が深まったんです」

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メアリーにしか描けない、独創的な<色の世界>


東村さんはメアリー・ブレアの原画展で、メアリーがふたりの息子を描いた作品「ケヴィンとドノヴァン」のレプリカを購入。今でも大事に飾っているといいます。

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東村さんが寄稿された原画展の図録。表紙の絵が、東村さんがレプリカを購入したという「ケヴィンとドノヴァン」。

「メアリーが描く絵は、もちろんうまいなっていうのもあるし、何より色合いが素晴らしいですよね。私は昔から、人によって色彩感覚って本当に違うなと思っていて。例えば、ピンクは“ピンク”だと思うだけの人もいれば、ショッキングピンク、サーモンピンク、白が混じったピンクとか……何色ものピンクを想像できる人もいる。そういう人にとっては1色1色の印象がまったく違って、ショッキングピンクだとギャルっぽいし、サーモンピンクならお嬢様風で、その違いが大事だったりする。

昔、ある女性タレントさんがブランドを立ち上げてバッグを作ったとき、『あなたには、このピンクとこのピンクは同じに見えるかもしれないけれど、私にとっては全然違うの!』とギャン泣きしたってエピソードを聞いて、『わかるわかる、その通り!』って思いましたもん。

そういう意味でも、私にはメアリーの絵は色がバシッとくる。何の違和感もなくスッと入ってくるんです。『シンデレラ』も『ふしぎの国のアリス』も、当時のディズニー映画は本当にきれいですよ。ハレーションを起こしている色がなくて、すべてがなじんでいる。作品の土台となるメアリーのコンセプトアートが、しっかり描かれているからなんでしょうね」

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メアリーが描いた『シンデレラ』のコンセプトアート。王子とシンデレラがダンスを楽しむシーン。(2009年に講談社より刊行した絵本「シンデレラ」より抜粋。※この本は現在販売していません)


ウォルト・ディズニーが認め、信じた、メアリーの才能


ディズニー・アーティストとして才能を輝かせる一方、実生活では同じディズニー社のアーティストと結婚し、ふたりの男の子の母となったメアリー。当時は、今以上に男性優位社会だったアメリカ。働く女性、しかもワーキングマザーにとって、厳しい環境であったことは想像できます。

そんな中でも、メアリーの才能を高く評価していたのが、ウォルト・ディズニーでした。

「メアリーは、自分の頭の中の色をキャンバスに出すタイプ。メアリーが描く絵は、実は結構色味が暗くて、専門的にいうと彩度が低い。絵の具で例えるなら、どれも黒をちょぴっと足したような色なんです。普通は『ふしぎの国のアリス』で、そんな色を使いませんよね? 別のアーティストがデザインしていたら、たくさんの原色を織り交ぜた、とにかくカラフルで楽しい世界にしていたと思うんです。

当時、まわりはきっと、彼女の独特の色彩感覚やセンスについていけなかっただろうし、そもそも、あの彩度でアニメを作るのは技術的にも難しかったはず。反発もあったかもしれません。

それでもウォルトだけはメアリーの才能を信じて、彼女を重用した。やっぱりウォルトの感性はすごいなって思うし、ウォルトが見つけたメアリーが、まわりに負けずに自分の世界観を貫いたから、たくさんの傑作が生まれたんでしょうね。

今のディズニーやピクサーのCGアニメはリアルな色を追求していて、実写みたいですごいなと思って観ていますが、メアリーの頃のアニメもやっぱりすてき。あの時代にしか出せない、幻想的な色の世界もぜひ観てほしいですね」

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東村さんが感じる<ディズニーの本当のすごさ>


そんなディズニーを語るに欠かせないアーティスト、メアリー・ブレアの生涯を描いた絵本が『Disney メアリー・ブレア イッツ・ア・スモールワールドができるまで』(講談社)が刊行されました。

2019年にアメリカで発売され、世界中で人気を博した絵本『Mary Blair's Unique Flair』の日本語版で、画家をめざしていた少女、メアリー・ブレアが「ディズニー・レジェンド」になるまでを描いた物語。メアリーのコンセプトアートをオマージュしたようなイラストもあり、メアリーの世界観を感じられる、まるでアートブックのように美しい1冊です。

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「ストーリーはもちろん、この絵本で私が注目してほしいのは<色>。メアリーをリスペクトするアーティストたちによって、メアリー独特の色彩感覚が、絵本の中で忠実に再現されているなと感じます。

言ってみれば、メアリーはディズニーの中で、色味や背景といった“ムード”を作る係。何十年も前から、こういった仕事をする人がいたんですから、やっぱりディズニーはすごいですよね」

ディズニーが数々の傑作を生み出せたのは、メアリー・ブレアのような才能あるアーティスト、そして、その才能を信じたウォルト・ディズニーの存在があったから――。

そんな、人々を笑顔にする<ディズニーの魔法>の裏側を覗ける絵本。ページをめくる度に飛び込んでくる美しい色たちにも、きっと癒やされるはずです。ぜひ手に取ってご覧ください。

 

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文/星野早百合