人は多少なりともコンプレックスを持っているものだと思いますが、そのコンプレックスが足かせになってしまい、息苦しさを覚えたり、思うように行動に移せなかったり……、なんてこともあるのではないでしょうか。女性マンガアプリPalcyで連載中の『星屑サファリ』の主人公・来音(くるね)は、グラマラスな体型の持ち主でグラビアデビューを果たしますが、実はコンプレックスの塊のような女性です。本作は、なかなか自信を持てずにいる彼女の成長物語なのですが、ジェンダーについても考えさせられる作品です。

『星屑サファリ(1)』 (Kissコミックス)

「ライオンに生えたタテガミは
強さの表れだと言われている
だとしたら人間の強さというのは
一体何で表されるのだろうか」

そんな印象的なモノローグから始まる「星屑サファリ」。主人公の来音は24歳にして初のグラビア撮影。攻めたヒョウ柄ビキニを着ていますが、緊張のせいか表情が固く、カメラマンに「それじゃあ獣どころかまるでエモノだよ」と言われてしまいます。胸が大きくて、ボリュームがあってワイルドなセミロングヘアが個性的な彼女ですが、小さい頃から大きい胸やボサボサな髪をからかわれ続けてきました。

 

幼い頃のある日、友だちの家で見たのは、友だちのお兄さんが隠していたエッチな本。そこには胸の大きな人、小さな人、背が高い人、低い人、ふくよかな人、細い人などが惜しげもなく自分を披露していて、来音は、それらの女性たちがみんな違っているけど、とても美しいと感じたのです。

なんとか初めての撮影を終えた来音ですが、思うように自分を表現できず凹んでいました。そんな彼女の心の支えは、カリスマ的グラビア女優の東浪美(とらみ)さゆり。ただ外見が美しいだけでなく、「女ばかりが男の所有物である必要はないです」などと、主張すべきことははっきりと口にできる、強くて美しい女性の代表格として活躍していました。まだまだ駆け出しの来音ですが、東浪美という憧れの存在がいるからこそ、めげずに頑張れていたのです。

 

撮影終わりの来音が目にしたのは、東浪美が表紙を飾っていた女性誌の表紙ポスター。今、大人気の人気アイドル5EAST(ファイブイースト)の司馬涼二(しばりょうじ)と抱き合っている表紙だったのですが、司馬を見て、複雑な表情を浮かべる来音。実は司馬が高校時代の同級生に似ていて、思い出したくもない出来事が頭をよぎってしまうのです。

 

来音は、同じグラビアアイドルの仲間・雛に誘われ、業界人が集まるパーティに参加することになります。会場には著名な写真家もいて、積極的な雛が物怖じせずに声をかけにいきます。ところが、「なんだ てっきり珍生物がそろってるから お笑い養成所の子達かと思ったよ」とからかった上に、雛に対して「あんたここで脱いでみろよ」「グラビアなんて脱ぐのが仕事だろーが」などと煽りはじめます。不穏な雰囲気が漂い始めたその時、来音は間に割って入って写真家に謝り、怒りに任せた写真家からワインをかけられても、「だけど…やっぱり脱げません 安売りはできません…ッ」と自分の主張すべきことをなんとか言い通すことができました。

 

とはいえ、顔を売るチャンスである業界人のパーティーでやらかしてしまったと落ち込む来音。そこにさきほどの写真家の隣にいた男性が近寄り、来音を強引に誘おうとします。「どの世界にだってヒエラルキーはあるでしょ? 例えば権力を持つ人 持たない人」「男と女とか?」と来音の腕を強く掴んで追い詰めてきます。さっきは勇気を振り絞って「安売りはできません」と言えたのに、自分はやっぱり弱い立場で強者に飲み込まれるしかないのか、と思ったその瞬間、人気アイドルの司馬が声をかけてくれ、来音はなんとかその場を脱することができました。

 

今までは、自分が弱いばかりに言いたいことも言えず、人にないがしろにされたりしてきた来音。そんな自分を変えたくてグラビアアイドルになろうとしたはずでした。来音は、自分を助けてくれた司馬に、東浪美に憧れてこの世界に入ったものの、「まだまだで……」と自分について自信なさげに話します。静かに聞いていた司馬は、さきほどの写真家とのやり取りを見ていました。その上で、勇気を振り絞って立ち向かっていた来音のことを、「ライオンみたいだなって 思ったけどな」と肯定。この司馬との出会いが、来音を大きく変えていくことになります。

 

物語は、大きな胸とライオンのような髪という外見だけでなく、過去の辛い経験から内面にもコンプレックスを抱えている来音が、司馬や憧れの東浪美と関わっていくようになることでどう変化していくかが見どころで、さらには恋愛関係も絡んでくることに。

見た目や性別で判断される不条理さは、多かれ少なかれ誰もが経験したことがあるのではないでしょうか。そういうことが繰り返され続けると、適当にやりすごしたり、自分の感覚を麻痺させてシャットダウンしたりと、無意識のうちに自分を守ろうとします。でも一方で、自分でも気づかないうちに疲弊し、確実に心が削られていきます。来音もきっとそんな一人で、自分が自分であるために、自分を好きでいられる居場所を見つけるために、グラビアアイドルの道を目指します。来音の迷いや葛藤は自分ごとのように思えて考えさせられますし、なんとか一步踏み出そうと葛藤する姿に小さな勇気をもらうこともできます。

本作が初連載となる和田こま先生ですが、かわいらしさと色気が同居したタッチが特徴で、自分に自信が持てずにいる女性の心情をリアルに描き出しています。今から注目しておきたい作品と作家さんです。

 
 

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『星屑サファリ』
和田こま 講談社

天然パーマと豊満な胸――小さい頃、人と違う自分の体をコンプレックスに思っていた来音(くるね)は、グラビア雑誌を見て衝撃を受ける。中でも、カリスマグラビア女優・東浪美(とらみ)さゆりは「女が受け身のエロになんてさよなら!」と言ってのけるような、心も身体も強く美しい女性の象徴! 彼女の背中を追うように、来音は24歳で初めてグラビアデビューをする。しかし結果は散々な上、東浪美とも共演している人気アイドル・5EASTの司馬涼二(しばりょうじ)と恥ずかしい出会いをしてしまい……。さらに司馬から、東浪美が芸能界を引退すると聞いて……!?