レジリエンスは素質ではなく鍛えて手に入れるもの

「いいことはおかげさま、悪いことは身から出たサビ」ノーベル賞科学者・山中伸弥教授が語る子育て_img0
 

逆境に負けないしぶとさについて語り合っていた山中さんと成田さんは、レジリエンス(乗り越える力)の大切さについても言及。山中さんは、中学時代の柔道部の顧問だった西濱士朗先生と再会したときに言われたことを引き合いに、レジリエンスの鍛え方について語るのでした。

 

山中 「山中君、僕はな、レジリエンスというもんは生まれつき備わっているものではないと思う。柔道と同じで、後からでも鍛えることができると思うんや」と(西濱先生に)言われて。

成田 その通りです。

山中 僕から見ると西濱先生は、レジリエンスのかたまりなんよ。胃がんの手術をされて、一旦きれいに全部手術成功して、これでもう大丈夫、良かった、良かったって思ってたら、非常に特殊なタイプのがんだったらしくて、あっという間に肝臓に転移して、気が付いたらもうどうしようもない状態だった。肝臓って不思議な臓器で、肝臓のほとんどががんでも、なんかお元気なんだよね。で、ある線からもう急激に悪くなるんですけども、だからそのギリギリのところでお会いして、ご本人は当然ご自分の残された時間を知っておられて。そんな中でもそうやって僕に一生懸命教えてくれるくらいですから、ほんとレジリエンスのかたまりのような先生。

成田 うんうん。

山中 その先生が、レジリエンスをどう鍛えるか? って話になったときに「僕は感謝だと思う」とおっしゃったんです。教え子がみんなすごい心配して。主治医も教え子で、医者になった教え子たちが治療法を提案したり、医者じゃない教え子も集まってきてくれて励ます会を催したりしました。そうやって教え子たちが自分を支えてくれることに「すごく感謝している」と先生がおっしゃって。「感謝することによって、僕はこうやって平気というか、ちゃんとしていられるんだ」っていうようなことをおっしゃった。あれは先生から最後の授業を受けたと思っているんやけどね。

成田 山中君が話した「ありがとうを言い合える関係性」に通じるね。やっぱ、感謝って大切ですね。

山中 そうなんです。いいことはおかげさま、悪いことは身から出たサビ。

成田 レジリエンスって「打たれ強さ」みたいに言われる場合もあるけど、他者に感謝することで、自分が強くなれるんだね。

山中 自分を助けてくれた人の思いに報いたい、と思うんだろうね。

成田 繰り返しになるけど、withコロナの時代のように、なにかこう、追い詰められたときこそ大事だよね。他人はそうそう動かせないから、自分がどうするか、どう変わるか。そんな思考を持つのが重要で、その原点が「おかげさま」なんだね。子どもたちのそういう感覚を育ててあげたい。

山中 そうなるなあ。だから、西濱先生には本当に感謝しています。