うまくいかないときに立ち直らせてくれる考え方
成田さんとの対話を通してレジリエンスへの理解を深めていった山中さんは、自分の母親もレジリエンスを持っていたことに気づきます。その一例が高校時代のエピソード。教育実習生との柔道の練習で骨折したときの母の反応を思い返しながら、レジリエンスを持つ人の思考パターンを考察するのでした。
山中 その日の晩に家に実習の先生から電話がかかってきて「息子さんにケガをさせてしまって申し訳ないです」と。すると、電話を受けていた母親がこう言うわけです。「いやいや、そんな謝らんとってください。うちの伸弥がちゃんと受け身せえへんかったからやと思いますから。悪いのはうちの子ですから。かえってご迷惑をかけて申し訳ない」。当時はね、高校生で思春期ってやつだから、母親に反発というか、反抗期でもあったんですけど、そのときは「ああ、うちの母親は偉いなあ」って素直に思った。相手を責めずにむしろ謝る姿を見て、自分の母ながら「立派な人だな」と。そのことはずっと記憶に残ってる。
成田 「うちの子になんてことを」ってなってもおかしくない。今はそういうお母さんのほうが多いかもしれない。
山中 うまくいかなかったとき、原因は自分にあるんやで、と教えてもらいましたね。「いいことはおかげさま、悪いことは身から出たサビ」。そんな生き方を教えてくれた気がしています。
成田 いいときは「周りの人のおかげで、自分は何て恵まれているんだ!」って感謝すればテングにならずに済む。逆にネガティブなことが起きたときは、自分を振り返ることができるものね。
山中 「身から出たサビ」と「おかげさま」の二つ。自然にそう思える人がきっと、立ち直れる。レジリエンスがあるんじゃないかな。ついつい逆になっちゃうでしょ。うまくいったら「俺が頑張ったからだ」って思って、うまくいかないと「ああ、みんなが手伝ってくれないからだ」とかって思っちゃう。そう考えてしまうと、うまくいかなくなったときに解決策がないというか、立ち直る術がなくなっちゃう。
著者プロフィール
山中伸弥(やまなか しんや)さん:
1962年、大阪市生まれ。神戸大学医学部卒業、大阪市立大学大学院医学研究科修了(博士)。米国グラッドストーン研究所博士研究員、京都大学再生医科学研究所教授などを経て、2010年4月から京都大学iPS細胞研究所所長。2012年、ノーベル生理学・医学賞を受賞。2020年4月から公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団の理事長を兼務。
成田奈緒子(なりた なおこ)さん:
1963年、仙台市生まれ。神戸大学医学部卒業、医学博士。米国セントルイスワシントン大学医学部、獨協医科大学、筑波大学基礎医学系を経て2005年より文教大学教育学部特別支援教育専修准教授、2009年より同教授。2014年より子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表。主な著書に『子どもにいいこと大全』(主婦の友社)、『子どもが幸せになる「正しい睡眠」』(共著/産業編集センター)。
『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』
著者:山中伸弥/成田奈緒子 講談社 990円(税込)
ノーベル賞科学者・山中伸弥教授が、神戸大学医学部時代の同級生であった小児脳科学者・成田奈緒子医師と子育てについて語り尽くす対談本。同級生ならではの打ち解けたムードのなか、徐々に本音を見せていく山中教授の親近感あふれる姿に魅了されるでしょう。エリート人生を歩んでいるかに見える二人の学生時代の意外なエピソードや、科学的根拠に裏打ちされた最新の子育て法に注目です。
構成/さくま健太
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