日本にはこれまで長く、更年期について語ることはタブーという空気がありました。しかしそれがここ数年、急激に改善されつつあります。その背景には一体どのような社会の変化や私たちの意識変化があったのでしょう? 「更年期と女性の生き方」について積極的に発信し続けている小島慶子さんに、自分の身体との向き合い方において、今私たちが持つべき意識を伺いました。
更年期ネタを”振ってもらえる”バラエティ業界
テレビや雑誌など様々なメディアで、自身の更年期体験や、周囲の理解の必要性を発信し続けている小島慶子さん。まだまだ更年期について語りづらかった時代から、いち早く声を上げるようになったきっかけは何だったのでしょう?
「30代に入ってから、テレビのバラエティ番組に出ると、司会者や共演者から年齢や更年期ネタで“いじられる”ようになったんです。当時、私はまだ更年期には入っていませんでしたし、更年期についても詳しくは知らなかったんですけど、求められているリアクションは『もぉー、違いますよぉ!』だというのは分かりました。だけどそれだけはやりたくなくて。だから空気を読まずに『一般的には私の年齢ではまだ更年期じゃないんですよ』とか、『更年期って本当にしんどいらしいですよ』とマジメに答えていました。おそらく男性出演者たちは深く考えず、『単にネタを振ってあげた』くらいの認識だったんだとは思いますが、私は更年期をバカにする空気に同調したくなかったんです」
女性が身体のことを語りやすい社会に
そしてもう一つ、発信を続ける裏には「女性が身体のことを語りやすい社会に変えていきたい」という思いもあったそうです。確かに、私たちの多くが“更年期=月経の終了とホットフラッシュ”くらいしか知りません。抗うつ作用を持つエストロゲンの減少が、精神状態にどのような影響を及ぼすかなど大事な情報は、共有されてこなかったのが現実です。
「これまで日本では、女性が自分の身体について語るのは、タブーとされてきました。だから不調があっても我慢してきた人も多かったと思うんです。それがここ数年、月経によって起こる不調や、それに伴う社会課題について、パブリックに語られるようになってきました。だけど更年期や閉経に関しては、まだまだタブー感があった。でも月経が語りやすくなったなら次は更年期や閉経だ! と思って。それも、私が積極的に発信している理由の一つです。みんなと語り合ったほうが、知識が増えるし情報交換もできるし、いいことだらけだと思うんですよね」
たしかにここ数年は、月経や更年期のことを含め、自身の身体についてSNS上で発信する著名人も増えています。女性の身体に対する価値観が改善されつつある――。その背景にあるものは何なのか伺ってみました。
世界的な「MeToo」運動と更年期世代の女性労働力への需要の高まり
「やはりMeToo運動が大きかったと思います。日本のマスコミはいわゆるマッチョな男性社会でした。女性の身体に関する企画を提案しても、『そんなネタ』と却下されてしまう。それが分かっているので女性たちも仕方なく男性社会に適応していた。その結果、様々なセクハラ問題などが放置されていました。けれど2017年のアメリカ発の#MeToo以降、日本のメディアでも自分たちが声を上げなきゃダメだと、女性記者やディレクターたちが連帯して、セクハラについて真剣に取り上げる動きを増やしました。組織や媒体の枠を超えて頑張った結果、セクハラだけでなく、女性に関するさまざまな企画も通るようになったんだと思います。
そしてメディアの力はやはり大きい。保守的な高齢世代の人たちも、テレビや新聞などで頻繁に『月経』『生理』『更年期』といった言葉を見聞きしているとだんだん慣れていくものですから」
加えて、社会も更年期世代の女性たちを必要としている、という切実な事情もあったようです。
「更年期の不調は、活動のパフォーマンスや満足度を下げると自覚している当事者はたくさんいると思います。実は企業にとっても、深刻な問題なんです。働く女性の中で最も数が多いのは中年からいわゆる更年期前後の世代。ちょうど役職につくなど責任が生じてくる時期が、更年期と重なるわけです。昨今は、多くの企業が女性たちに管理職にトライしてほしがっています。でも実際は職場の理解不足や制度の不備で、更年期による不調で休職や退職に追い込まれる女性がたくさんいます。これは社会課題として積極的に取り組まなければならない、企業にとっても大きな損失だ、という認識が広がってきているのです。
女性の身体は女性のもの。いやらしいものでも汚いものでもないからちゃんと語ろうね、という社会に変わりつつあると感じています」
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